第1章5話 初志貫徹

親が高校の同級生で、家が近かったこともあり、春雪とは赤ん坊の時からの付き合いだ。今は学校では用がない限りは関わっていないが、スクールカーストが明確になる頃までは春雪にずっとくっついていた記憶がある。

付き合いも長いので、当然、喧嘩は数え切れないほどしてきたが、ほとんど俺に非があって、しかもほとんど春雪から謝ってきてる気がする。


昔から優しかった春雪に、こうして今も甘えていると思うと、我ながら全く成長していないなと辟易する。俺はあいつに何かしてあげられているのだろうか。


そんなことを考えながら、俺の目の前で淡々と春雪を見る。

現在8月29日の18時。夏休み最終日だ。

昨日、凄まじいペースで課題を消化してくれた春雪だが、一方で俺は深夜に寝落ちしていたらしい。

課題を終え、様子を見にきた春雪曰く、「枕にチャート置いて寝るなんて随分余裕なんだね」とのこと。


心が痛い。


「僕は今日寝るから、それ以降は自分でやってね。あと、報酬は上乗せさせてもらうから」


「あ、はい」


春雪に起こされ、一緒にチャートを解いて数時間経つが、このペースなら春雪が寝るまでに終わるだろう。こいつ、俺が一問解いている時間に二問解いてやがる。



「なんか…すまんな」


「別にいいよ」




その後は一言も会話することなく、日付が変わると同時にチャートは終わった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「終わった…」


目の前で伏している春雪を起こさないように、ガッツポーズをした。

春雪が寝るまでは終わると思ったが、途中で力尽きて寝落ちしてしまった。


俺は春雪の肩から落ちそうな毛布を直し、ベランダの外に出た。



「アキはまだ攻略されてないか」



冷たい空気を肌に感じながら、3日ぶりに掲示板を見る。

発売してからおよそ1カ月。諦める人も次第に増えて行き、掲示板も過疎ってきている。



脳裏にアキの姿を思い浮かべる。

こうして、1人夜風に当たっていると、自分がどうしてあそこまで躍起になっていたのか分からなくなる。もちろん、理由はわかっているが、果たしてそこまでする価値があったのかと、冷静な自分が問いてくる。


「へぇ、これがアキなんだ」


振り返ると、春雪が俺のスマホ、掲示板に投稿されたアキのスクショを指していた。


「こんなのは序の口だ。好感度を上げればもっと可愛いアキが見れるぞ」


「やっぱり、その子がすごい好きなんだね」


「そりゃもちろん。そういや、お前はどんな娘がタイプなんだっけ?」


「うーん。大人しくてマイペースな感じの娘かな。タメだと尚良し」


「それじゃあ、この娘なんてどうだ?」


そう言って、俺は掲示板を閉じ、画像フォルダから1枚の画像を春雪に見せた。


「黒髪ロング、趣味は園芸。学校では美化委員をしていて、陰で教室を華やかにしてくれているヒロイン。名前はフユカだ。」


「…海人。このゲームどこで売ってる?」


どうやらお気に召したようだ。


「駅前のTATSUYA。明日帰りに買いに行くか」


「うん!」


そう言った春雪の瞳は、清々しい程に輝いていた。


…そうだ。俺も最初はこんな瞳をしていたはずだ。アキに惚れて、なんとしてでも攻略したいと、そう燃えていたはずだ。


「春雪。俺は今からゲームするけど、隣で見てるか?」


「おお、先輩のギャルゲー講座。これは聞くしかないよ」


そんな訳で、すっかりギャルゲーに興味を持ってくれた春雪と共に部屋に戻り、3日ぶりにギャルゲーを起動した。



夜はまだまだ、長くなりそうだ。

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