第13話 「 emergency 」


 この二、三日、わが家で夕食を摂っていない気がする。


 ぼんやりとそんなことを思いながら、俺は駅前にの、とある飲食店を目指して歩いていた。


「ほら、元気を出して。ね、ダーリン☆」


 傍らにはレイラが歩いている。 


 何故二人で向かっているのかというと、流石に良心の呵責かしゃくを感じたのかレイラが食事を奢ると言い出したからだ。


「わかったから、少し離れて歩いてくれ」


 レイラは俺と腕を組んで歩いているし、歩き難くてかなわない。しかもすれ違う人々の好奇の視線が痛い。


「え〜と、こういう時って日本語でなんていうだったかしら。……いけず、だったかしら」


「なんだそれ?」


 初めて聞くワードだな。あとでネットで検索してみよう。


 そういえばレイラと、こんな他愛もない話をするのは初めてじゃないかな―――そう思った時スマホの着信音が鳴った。


 チャットやメールならひとまず未読無視しようと思ったが、間の悪い事に電話だった。


 仕方なく一度荷物を下ろし、スマホを手にとる。


「もしもし、ジリ?どうした……は? 今どこだ? ……学校? ……ああ、分かった。ちょっとそこで待っててくれ。すぐに行く」


 通話を切ると、瞬く間に緊張を帯びた俺の表情から切迫した事態を察したのか、レイラはタクシーを止めていた。


「ゲンキ、乗って!」


―――――――――――――――――――――


「そういえばレイラ。C.E.Pのライブで何かが起こることは予想していたんだろ?会社の方から中止にできなかったのか?」


タクシーの車内で俺はレイラに尋ねた。


「無理よ。C.E.Pはゼノの管轄だもの。私では口出しできないわ」


 ゼノ。稀代のミュージシャンにして栄光を掴んだロックスター。


「なぁ、ひょっとしてゼノが黒幕なのか?」


 ゼノ。一流の実力を持った魔法使い、か。


 鈴木から聞いた話やレイラとの話から推察してはいたが。


「それで、お友達からの緊急Emergency要請requestはどんな内容だったのかしら?」


 なんだかんだほぼ毎日やりとりしている俺と聖だが、大した事ないことなどはチャットで済ませる。予告もなしに電話というのは珍しい。それに  


「慌てていたみたいだからよく聞こえなかったけど、確か、後輩に襲われているとか、手品みたいなもので副部長が襲われた―――とかなんとか」


「手品……」


 呟くレイラ。


 それ以来黙り込んだレイラを横目に見つつタクシーの車窓から学校を視界に捉えた。


 あと一分くらいか。


 言い知れぬ悪い予感を感じつつ、早く着いてくれと俺は祈っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はっ……はっ……はっ……」


 息が上がるのが早い。最近体を動かすことを怠けていた所為か。


 非公式ではあるが、短距離走では県記録をマークしたこともある。


 体を動かすことは得意だった―――特に走る事に関しては自信がある。


 しかし、何時まで経っても何処まで行っても、すぐに追いついてくる。


 少女―――三日月聖は現在、無人の後者を逃げ回っていた。


〜To be continued〜

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