第二章 when I decide
第4話 「 remember 」
翌朝の目覚めは最悪だった。というよりも、ほとんど寝ていない。
昨夜―――金髪の少女レイラを成り行きで
しかしそこから先の出来事いついては、振り返って考えてみるとやっぱり信じられない。
俺は現実と常識の二律背反に煩悶し、うまく寝付けなかったのだ。
それにつけてもあの女……。
俺は昨夜のことについて改めて考えてみる。
―――――――――――――――――――――
「終わったのか?」
呟いた俺の言葉に答えはなく、
「レイラ?」
俺の横に立っていたはずの金髪少女の姿は、忽然と消えていた。足音一つ立てずに。
どうなっているんだ?
不可解に次ぐ不可解で、俺の脳はクラッシュ寸前だった。
どこからか人の声がしてきた。
さもありなん、だ。街中で爆音のギターが轟いたのだ。はた迷惑の原因を突き止めるため、人が集まってくるのは致し方ない。
ひとまず俺はギターをギターバッグに仕舞い、荷物を全て提げて脱兎の如く駆け出した。
自宅まで一気に走り抜け、俺はようやくひと息つくことができた。
玄関の扉を開けるが早いか、上がり
そこであの女―――レイラに対する怒りがふつふつと湧き上がってきた。
もし今度会うことがあれば―――その可能性は限りなく低いが文句を言ってやろうと思った。
彼女に対する憤りも手伝い、睡眠が困難になってしまったのだ。
しかし一晩経ち、曲がりなりにも一眠りした後で考えてみた。
おそらく彼女は日本に旅行に来ていた旅人なのだろう。流暢な日本語を話していたので、どこかにホームステイをして留学しているのかもしれない。
いずれにしても異邦の少女だ。もう会うことはないだろうし、少なくとも彼女はもともと絡まれていたのだ。年下の少女が面倒を嫌って姿を消したとしても、それは仕方がないのかもしれない。
そう思い直し、俺はダイニングへと
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昂星高校軽音部の活動は、基本的に土日を除き毎日行われているが、全体参加日は月、水、金曜日で、火、木曜日は個人練習の日になっている。参加は強制されないので参加率はだいたい五割といったところだ。
自宅で大きな音が出せないとか、ドラムスのような機材がないという事情がある者は基本的に音楽室を使うため部活に参加するが、それ以外の―――例えば俺のように家に防音設備があったり、一人で集中して練習したいなどの―――事情がある人は参加していない。
とはいえ、実は俺は火、木曜日も―――つまり部活には毎日出るようにしている。理由は色々あるが、やはり音楽が好きな者同士、あーだこーだ言いながら楽器をいじっているのが楽しいのだ。
今日は火曜日。だが、部活に行くか否か俺は迷っていた。
正直昨夜のショックからまだ醒めていないので、練習に身が入らないのは分かりきっている。だが、昨日の部活早退のフォローも早めにしておきたい。
よし、今日は部活に行こう。
そう決心した俺は、やっと周囲の異変に気づいた。
なんとなく浮ついた雰囲気だ。
近くの席にいたクラスメイトに声を掛けてみる。
「何かあったのか?」
「ああ、不夜城。アンタまだ聞いてないの?なんか校門のところに美少女がいるらしいよ」
「学校の部外者か?」
「多分ね」
そういってクラスメイトの新井若菜は、スマホをいじった。
「なんか校門のところ、すごい野次馬だらけらしいよ」
どうやらLINEでトークしているらしい。相手はおそらく校門付近にいて、実況中継しているようだ。
よく見れば先ほどから、同じアプリの着信音が教室のあちこちで鳴っている。みんな考えることは同じか。
「しかもめちゃカワで外国人の女の子なんだって‼︎ヤバ、私も見たいかも。―――写・メ・お・く・れ……と」
外国人の女の子?
昨日の今日だ。そこはかとなく嫌なフレーズである。
「ん〜。なんか人を探してるんだって」
教室のどこからか「誰だろ」と呟きが聞こえた。
嫌な予感がする。果てしなく。
「は?マジ⁉︎」
新井が一際大きな声を上げたと思ったら、横目で俺をじっと見ている。いや、教室で情報収拾していたと思しきクラスメイトたちの全ての視線を、俺は全身に浴びていた。
「……なんだよ」
もう何が起こるのかわかった気がしたが、敢えて新井に訪ねた。
新井は答えを言葉ではなく自分のスマホのディスプレイを示すことで返した。
大きめのディスプレイには一対一のチャットルーム。相手は『メルちょ』なる人物で、誰かは判らない。
問題はそこに記された相手からのメッセージ。
『フヤジョーゲンってやつだってww』
そして、添付された写メだった。
写メには―――少し離れた場所から隠し撮りしたのだろう―――金髪の少女が写っていた。
レイラと名乗った、昨夜の少女だ。
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