どうやら俺は女装すると強くなるらしい。
くじら座オミクロン
「プロローグ」
春。風が吹く。桜が舞い散る。
俺はチャリで坂を駆け上っていた。今日から新学期が始まるのだ。
俺は高校二年生となる。
このチャリで走る時間は、頭の悪い俺の、頭が悪いなりの考察タイムとなる。
世界とはなんだろう。
俺は思った。
世界とはなんだろう。
直線の小さな道をまっすぐ進む。
両脇に沢山の家が建てられている最中だ。
いや、正確に世界が何か知りたいわけじゃない。昔の哲学者が言っていたらしい、「人間はどこから来たのか…(以下略)」という問いではない。
人間は、というか俺は。
世界に絶望している
だから、「世界とはなんだろう」などと考え出すのだ。
大通りに出る、信号を待つ。
青になった。渡る。
「人間がこの世界に絶望している」証拠はいくらでもある。例えば、小説。あるいは漫画。ある時は映像として。そう、「物語」という存在が、その証拠になるのだ。自分とはかけ離れた存在を作り、この世界とはかけ離れた世界を作り、この世界にはないルールを創る。絶望の世界に生きている者は、新しく、美しく、儚い世界を創り出す。
そして、その「物語」を求めるものもいる。
「物語」は沢山のボッチに、ブスに、引きこもりに、ニートに、バカに。
楽園を見せてくれるのだ。
俺たちは、嫌でも魅せられるのだ。
そういう存在に生まれたからには。
その存在はこの世界に満足できずに他の世界に行くことさえも望む。
当然だろう?チートになれるのだから。
ハーレムなのだから。
素晴らしい高校生活を送れるのだから!
路地を少し進んで、中くらいの通りに出る。信号が赤だった。いつも必ず引っかかるところだ。
高校生になって、俺はライトノベルのありがたみを知った。
小説の中の世界などリアルには存在しないのだ。アニメの主人公のようにはなれないのだ。あれは、「物語」は、俺ら陰キャに与えられた救済措置なのだ。
救済を求めた俺たちが、少しの希望を求めて小説を買う。お金が動く。世界が回る。
陰キャは、世界を回しているのだ。
おめでとう、俺たちにも生きる意味はあるぞ!
ここまで考えて、俺は思った。
「何考えてんだよ…俺…」
そして、ため息をつく。
信号が赤から青に変わるその瞬間。
「何を考えていたのじゃ?」
-じゃ?
美女が、俺のチャリのカゴを掴んで、真正面から俺の顔を覗き込んでいた。
瞳の色は、紅。白髪の長い髪。美女。
俺の思考は、完全に停止した。
これが、俺が主人公となった「物語」のプロローグである。
どうやら俺は女装すると強くなるらしい。 くじら座オミクロン @mira_28
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