最高の目覚め方

津田梨乃

最高の目覚め方

 俺は早起きが苦手だ。

 今までありとあらゆる方法を試してきた。


 朝日を浴びるために、カーテンを引き剥がした。

 暗示をかけるために、寝る間も惜しまなかった。

 就寝前の食事がよろしくないと聞けば断食した。

 ブルーライトが悪影響と聞き携帯を叩き壊した。

 早く寝るために二徹した。


 だがどれもこれも効果がない。

 むしろ朝起きることが苦痛になりつつある。なぜだ。


 神に祈り、宗教にさえすがってみたが、まるでダメだった。


 なに? 起こしてくれるパートナーを見つければいい?

 何を言っているんだ、お前は。



 とどのつまり、原始的に目覚ましに頼らざるを得ないという結論に至る。

 もちろん、複数目覚ましも使った。当然、期待した効果は得られなかったわけだが。


 俺は、電脳世界を飛び回り、ありとあらゆる目覚ましを探した。

 そしてついに見つけた。


『最高に目覚められる目覚まし』だ。


 この際、ネーミングはどうでもよかった。

 人の評価もどうでもよかった。

 全財産を使ってしまったが、それもまあ、よしとしよう。


 最高ということは、早起きなど造作もないことだろ?

 藁にもすがる思いだった。



 どうか俺に早起きをさせてくれ。

 切に願いながら、寝床に入った。




 目が覚めると、そこは雲の上だった。

 早起きどころか、早逝しちまったか。


 俺は焦って人を探す。

 天使がいた。


「どうです? 最高の目覚めでしょ?」

 その天使のような、いや天使の微笑みに俺はつい頷きそうになる。

 いかんいかん。これを認めたら俺は死ぬことになる。直感的に思った。

 脳みそが死んだと判断したら、本当に死に直結する。そんな話も聞いたことがある。


「あら。気に入りませんでした? 仕方ありませんね」

 天使は真顔に戻り、『最高に目覚められる目覚まし』を取り出した。


「お眠りなさい」

 その一言で、目の前が真っ暗になった。


 目が覚めると、そこは地獄だった。

 なぜわかるのかといえば、鬼がいるからだ。


「どうだ? 最高の目覚めだろ?」

 その鬼のような、いや鬼の形相に俺はつい頷きそうになる。

 いかんいかん。これを認めたら、俺は死ぬことになる。

 相手が鬼だろうと、天使だろうと屈するわけにはいかない。


「あん? 気に入らなかったか? 仕方ねえな」

 鬼は真顔に戻り、『最高に目覚められる目覚まし』を取り出した。


「眠りやがれ」

 その一言で、目の前が真っ暗になった。



 目が覚めると、そこは会社だった。

 上司がいる。


「やあ。最高の目覚めのようだね」

 その形容しがたい迫力に、俺はつい頷きそうになる。

 いかんいかん。これを認めたら、俺は死ぬことになる。いや、死ぬとは大げさだ。路頭に迷うくらいにしておこう。

 っていかんいかん。これは、夢だ。ああ、夢に違いない。


「社長がお呼びだよ。それと」

 これは預かっておくよ。上司は、『最高に目覚められる目覚まし』を取り出し、天使とも鬼ともつかない表情で俺を見送った。

 

 俺は、ポジティブに考えることにした。

 死ぬよりは、マシ!!!


 ならば、言うことは一つしかない。


 はい。皆さんご一緒に。

 せーの、



「最高の目覚めだぜ」


(了)




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最高の目覚め方 津田梨乃 @tsutakakukaku

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