第1話(2)

―翌日、5月9日土曜日。

「ここか…」

目の前には、パステルブルーで『ELECTRIC』の文字が書かれていて、大きな白いビルでより目立っていた。

出入り口で配られていたELECTRICのパンフレットを見つつ、蒔はその聳え立つビルを眺めていた。パンフレットによると、1階はバッグショップ、2階は託児施設、3階は漫画喫茶、4階はビリヤード&BAR、5階はミニコンサートルーム、6階はカラオケルーム、7階が梅原探偵事務所となっていた。このELECTRICのオーナーも、所長の梅原だそうで。このビルは千代田区でも名の知れたビルで、平日祝日問わずたくさんのお客が来ていた。その大半は若者だが、中にはご年配の方なども多々いた。

とりあえず蒔は7階に行くため、常備されているエレベーターに乗り、扉を閉めようとしたとき、

「すいません、僕もついでに良いですか?」

と、見かけも良い好青年が訪ねてきた。蒔は心で『カッコいいな』と思いながら、先程の返事をした。

「どうぞ。何階ですか?」

するとその青年はこう問ってきた。

「ああ、お気遣いなく。僕の方がボタンに近いですし…そちらこそ何階ですか?」

断り方まで紳士そのものだった。

「じゃあ、7階で。」

と蒔が答えると、その青年は「はい」と言ってボタンを押した―ように見えたが、何も押してはいなかった。具合でも悪いのかと蒔は心配して声をかけようとすると、

「ふっ、ふふっ…」

と笑みをこぼした。しかし、その笑みは先程までの笑みとは全く違い、悍おぞましい不気味な笑みだった。思わず、蒔は一歩後ずさり、壁にぶつかった。

「ごめんねぇ、お嬢ちゃん…今から僕に付き合ってもらうよぉぉぉ!!!」

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