第4話 いずれ忘れるから覚えない

眩しかった中は屋内駐車場のような形になっていて車はその空っぽだらけの中からエレベーターから少し離れた場所に停車し、私たちも降りた。

「こちらですよ」

先にエレベーターの方へと歩き出すその手にはサラリーマンなどが持っているイメージがあるカバンがあった。あの中に私のプロフィールも入っているのだろうか。そう考えると今にでも消してしまいたかった。

「ここのことは白凪(しろなぎ)から聞いていますよね」

「一応は」

はっきり言って覚えていない。多分、打ち合わせの時、話している人の隣にスーツ姿で座っていた人だろう。話し方が独特というか順序が悪く私には伝わっていない。まあ、話し方に違和感を覚えて時点で聞くのをやめていたのも良くはなかったと思うけど。

「一応...ですか。まあ白凪の説明は分かりにくいですからね。もう一度説明しましょうか?」

歩きながら自動ドアをくぐり5階にあるエレベーターを3階である私たちのところに降ろす。

「じゃあお願いします」

好都合だ。施設の中を見ながら説明してくれるというなら分かりやすいしありがたい。

「まず部屋を紹介しますよ」

エレベーターに乗った私たち。運転手は階数ボタンで20階を押しスマホを取り出し何かをし始めた。説明するとはいったい何なのだろうか。

「他のみんなに会うのは後でのほうがいいでしょう」

「そうですか」

エレベーターの中は白を基調としており20人は入れると思えるほど広く2人だけでは落ち着かなかった。

「ポン」

到着して開いた扉の先は豪華ホテルの様になっていて部屋が見えただけでも10部屋以上はあったと思う。けれど私には部屋よりも右手にあるガラス張りで海が見えるロビーの方がきれいに見えた。

「冬木さん?」

どうやら見惚れてしまったらしい。自分で見てもキレイだと思うけれどまさか足が止まってしまうほど見ていたなんて。

「えっ、あ...はい」

重くなりつつある足を無理やり進めてあとを付いていく。

「ここですよ」

直線通路を進み7つ目の扉の前で止まる。どうやらここが私の部屋というらしい。

「全部屋カードーキーがないと入れないですから、無くさないでくださいね」

カバンから取り出したICカードを地下鉄の改札を通るような感覚でスムーズに開ける。けれど改札のように音はならなかった。

「はぃ...」

溜息交じりの返事になりながらICカードを受け取るもののあまり落ち着かない。なぜなら私は物事の管理が苦手だし無くすことも多いからきっと無くしてしまうだろう。学校でも大事な書類をなくして先生から怒られたこともあったし。

部屋の中はさっきと同じく白を基調として作られていて3LDKになっていた。しかも家具は大体そろっていて大きなテレビやソファ、ベットや机、パソコンなど様々なものがたくさんあった。実験体である私、あるいは私たちに3LDKの部屋を与える必要が一体どこにあるというのだろうか。1人じゃないのに考え込んでしまう。

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