第2話 変を知る
「...それは母を殺したことですか?」
極力平然を装い返事をするが少し嫌な気持ちになった。なぜかは分からなかった。
「まあ、そうなりますね。」
これに返す言葉が見つからなかった。多分、友達同士でも無言に近くなるだろう。
「あまりに早いですから」
そんなものなのだろうか。
言葉にはせずとも自然とそう思うのは少なからず自覚があるからだろう。
「どうなんでしょう」
あいまいな返事だがこれが今まで生きてきた中で困った時に使える返事だ。
「ほかの人たちはもっと長いですよ。会ったら孤立しちゃうかもですね」
孤立。言われても上手くイメージ出来なかった。というものの学校では友達もそれなりにいたし、そもそもとして1人で遊びに行ったりしていたので嫌いじゃないしむしろ好きなほうだった。周囲に気を使わなくて済むし。
「1人は嫌いでじゃないので」
「そうでしたね」
そういいながら左手をカバンの中へと突っ込み手探りだけである1枚のプリントを取り出しチラつかせてきた。少しムッとした私に気がついたのか苦笑された。
「プロフィール、ですか」
「事前に書いてもらったものですよ」
そんなの知っている。だって私が書いたものだからだ。
「じゃあ嫌いだというのも知ってるのでは?」
少し嫌味を込めて言う。実際、いやな気持ちになったのは事実。
「一応ね」
ここで1つ推測がたった。実はプロフィールにも事前の打ち合わせでもこの事は言ってないし書いてない。つまり私の知らないところで事前調査をしていたことになる。あくまで推測だけれど、ぼろが出たと思い少し頬が上がる。
すると突然、運転手が笑い始めた。疑問の顔を悟られぬように横目だけで見ても表情は笑っていた。
「いや、ここまで話してくれたのはあなたが初めてなのでつい嬉しくて」
そんなものなのだろうか
と、また思う。そりゃ初めて会う人と二人っきりで同じ車に乗っていれば少なからず不安にもなるし警戒もするが話さないほうがよけいに不安になると思う。だからある程度の会話はするようにしている。
「沈黙は嫌いなので」
すると「おや?」といった表情でこちらを見てきた。
「(ああ、この人も同じか)」
いままでの人はこの会話になると決まってそのような顔をする。
「1人が好きなのでは?」
「誰かといるときの沈黙が嫌いということです」
すると納得したように軽く頷きながら口を開いた。
「けど、何だかあなたの話し方は高校生らしくない」
「よく言われます」
素直な返事に運転手はクスクスと笑った。
「高校生でそんな話し方をする人と話したのは初めてだ」
「私も知らない人とここまで話したのは初めてです」
そう言って2人は静かに笑った。運転手はつかみは上々とでも思っているのだろうか。けど私の中では警戒心など一度も解いたつもりはないし緩んだタイミングといっても笑った時くらいだ。今でもこの人たちのことを完全に信用しているわけではない。その後も似たような会話が続いていたのだが他人や自分の違いを知れたのは意外と楽しかった。
外の奥のほうの景色をボーッと眺めていたのだが対向車線の車がいないことに気が付いた。先ほどから少なくなっているのはわかっていたのだが。
「あ...」
なぜか山道を登るこの車の対向車線から警察の護送車が下りてきた。横目で運転手を、そして流れるように護送車の運転手を見たとき、私は隠れて見てよかったと思った。
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