第4話 胎動

「私、そんなこと言った?」

彼女はようやく来た彼女でも飲めるソーダ水を飲みながら、眉間を寄せた。

「僕がフラれたことを面白そうに指摘するときは、お前も似たような境遇のときだ」

彼女は面白くなさそうに小さく鼻を鳴らすと、たった今運ばれてきたばかりのこれっぽちの小さなポーションのガランティーヌの真ん中にフォークを突き刺し、それを口に放り込み、ほとんど噛まずに飲み込んだ。

「ごちそうさま」わたしはそう言ってまだテーブルを離れきっていなかったスタッフにその皿を下げてもらった。スタッフは驚いたモルモットみたいに目をしばたかせたあと、その皿を下げた。

ガランティーヌを嚥下した後、彼女は少し脂のついた光る唇をわたしに近づけ、こっそりと言った。

「ねえ、ここ、全然美味しくないわよ」

「食べてないから分からない」わたしは答えた。

「次に来るコンソメスープ、全部あげるわ。食べてごらんなさいよ。わたし、いらないから」と彼女は言った。

「財布を、忘れてきたと言っていなかったかい?」

「ええ。正確には、持ってこなかった」

「万に一つ美味しくても、お前には一滴もやらない」

わたしはしばらくしてやってきたコンソメスープを、最後の一滴まで皿を抱えてあっと言う間に飲み干した。

「あなた、美味しいものを食べるときは、とびっきりゆっくりと食べるくせに」と、彼女は笑った。彼女とわたしの食べ物の好みは、とてもよく似通っていた。

「そういうところがダメなんだ」わたしは隣の中指よりも1センチ近くも短い人指し指を彼女に向けてつんつんした。

彼女は細く白い首の上にちょこんと乗っている小さな輪郭を、夜更けのミミズクみたいに、無垢そうに傾けた。

「どうせ男と一緒に食事に行っても、あれがまずいこれがまずいと言って相手を困らせたりがっかりさせたりばかりしているんだろう」

「だって、美味しくないものは美味しくないんだもの」

彼女はこの世にある大概のものを彼女があえて選ばないのではなくて、この世にある大概のものが彼女を全然選んでくれない、と言う調子でそう言った。

「お前と同じような歳の男で、実際に美味しいものを知っていてそういう料理にそれなりのお金を支払うことができる男なんて、どっかの美食家のところのぼんぼんか、資本主義気狂いくらいのものだよ」

「気が滅入っちゃうのよ。意味の分からない音楽ばかり聴いているし」

「どんな音楽だ」

「流行の音楽」

「お前は最近、どんな音楽を聴いているんだ」

「そうねえ。何かしら。今日聴いていたのは、ブルックナーの8番。色んな楽団と指揮者で」

「19のお前にブルックナーの何が分かる」

わたしのその言葉は彼女の頭の中で陶器と陶器をちょっとした勢いをもって触れ合わせたらしかった。

「33になれば、ブルックナーを理解できるとでも言う気?」

ブルックナー休止。

「お前、これまでに何人の男を殺した?」

「15人」と彼女は答えた。

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