KACに参加した多くの作者は四〇〇〇字という制限を前に、次のような問題に直面する。
――「ある重要な場面に字数を割いて情感豊かに描きあげる」べきか、それとも「小気味よい会話劇や軽快なテンポのシナリオで物語を魅せる」べきか。
この問題に対する答えとして本作はなんと「どちらも実現する」ということをやってのけた。
呪いにより目覚めを奪われた姫を守るべく、魔物となってまで戦い続ける騎士。その苦悩と孤独と、なによりも姫に対する愛慕の心情が確かな文章力によって表現され、読者は瞬く間にその誠実な人柄に魅了される。
そしてシナリオ。呪いや魔物についての設定にもごく自然に言及がなされており、それだけでなく姫の身の回りの世話をする騎士の日常と、姫を狙う魔物の襲撃シーンを織り交ぜることによって厚みのある説得力と物語の緩急が生み出されている。
目覚めることのない姫と、そのために魔物となってまで戦う騎士。
一見して悲哀漂うこの場面設定が、しかし、なにものにも代えがたい騎士の想いを鮮やかに浮き彫りにし、不可能に思われた奇跡的な目覚めは必然へと変わる。
剣のように真っ直ぐで曇りない願いが引き寄せた「最高の目覚め」によって、すべての読者は最高の読後感を味わうことだろう。