紫陽花の満開の下

 彼女は手紙に書いてあった通り、あまりにも軽かった。深夜三時半を回ったころ、僕はかつて彼女と見た紫陽花の前に立っていた。 まだほとんど咲いていない。空梅雨のはずなのに、雨が降っていた。泣けない僕の代わりに空から零れてきているのかもしれないと思った。


 紫陽花の根を避けて、できるだけ深く穴を掘るのは至難の業だった。それでもできるだけ深く掘った。ビニールシートにくるんでいた彼女を穴の中にそっと横たわらせる。こんなときまで彼女は美しかった。それがなんだかかなしかった。僕は、彼女が好きだったんだろうか。穴の中の彼女を見つめる。失ってしまったものだから、そう思うのだろうか。わからない。けれど、やっぱり綺麗だと思った。朝がきてしまうと厄介なので、埋めるためにシャベルを手に取る。土をひとかけしたところで、ひとつ思いついて、シャベルを置く。四葩になりたいといった彼女だ。なんとなく、彼女の小指に紫陽花の根を絡ませた。特に根拠はなかったけれど、それは彼女にとって悪いことではないように感じた。


 彼女を埋めて、土を固め、車とシャベルを三鷹に返した。三鷹は家まで送っていくと言ったが、断った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る