三鷹という男
彼女が図書館に現れなくなってから一か月が経った。一条に聞いても少なくとも自分が働いているときには来ていないとのことだ。ほとんど毎日出勤しているかれのことである、まさか僕も彼もいない日に訪れているとは考えにくいだろう。もうこないのだろうか。そう思い始めたころだった。
「五月君。君に手紙が届いていますよ」
一条が僕に一通の白い封筒を手渡す。
「君は郵便局員だったのか」
ふざけて返す。今までこんなことはなかったから少し警戒する気持ちもあった。
「三鷹さんという人からです。普段の業務に郵便物代理受取なんてありませんから断ろうかと思いましたが、どうやら尋常じゃない気がしたので受け取っておきました」
どこかで聞いたことがある名前だった。しかし交友関係の狭い自分に聞き覚えはあるが誰だか思い当たらない人間がそういるわけはないので、どうしたものかと何も書かれていない封筒をぴらぴらとしながら見ていた。
「どうやら彼女の関係者のようですね。四葉の知り合いの男に渡してくれ。とのようなことを言っていました」
思い出した。彼女がよく口にしていた名前だ。しかし、彼女の男が僕に用があるなんてことはあるのだろうか。あるとして、直接呼び出したりはしないものだろうか。なんだか気味が悪いような気がした。
「そうなんだ。どんな人だった」
脳に掠めた嫌悪感をふき取るように尋ねた。
「普通にスーツ姿で眼鏡をかけた細見長身の人だったと思います。サラリーマンにしてはスーツが上等でした。まあ、普段スーツを着ない一介の図書館司書には細かいことはわかりませんが」
スーツに何か思い入れがあるのだろうかこいつは、と思いながらもそれには何も言わず、礼を言って閲覧席に向かう。早くこの手紙を読まなければいけない気がした。
閲覧席に着き、白い封筒から同じように白い便箋を取り出す。初めの文字を見て、驚かずにはいられなかった。それは、彼女からの手紙であった。
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