転生したらロー◯ョンだった件

にのい・しち

決して、ディスりでありませんm(_ _)m

 頭が引き伸ばされ、地に沈んで行く感覚に落ちていく。

 地に落ちた存在は止めどなく広がり、自分の身体なのに制御できない。

 身体を押さえつけるような圧が加わるが、痛みも感じず、抵抗する力も忘れたように受け入れてしまう。

 そして…………。




 目が回るぅぅぅううう!!?

 な、なんだ!?

 手も足も、身体全体の感覚がない。

 頭だけフワフワ浮いているような気分だ。


 何か重量のある物が、頭へ押し込まれ、脳ミソをグリグリとかき回してる。

 頭部をめいいっぱい持ち上げられてる感覚なのに、顔から半分が重力に引っ張られて沈んでいくようだ。

 

 わけがわからねぇ。

 俺どうしちまったんだ?

 水飴かスライムにでもなっちまったのかよ?


 そのまま上へ下へ、前へ後ろへ激しく揺さぶられてる。

 時間が経ち、この感覚に慣れてくると、自分が今どんな状態なのか推測出来た。


 俺は今――――かき回されているんだ。


 さながら、車輪で水を組み上げる水車のように、かき回されている。

 しかも、高速で。


 俺の身体をかき乱していたのはナイフのように鋭い2つの物体。

 時折、物体の刃先は3つや4つに割れたり、くっついて1つになったりと繰り返していた。

 鋭く尖りながら、その感触に鋭利な危険さはなく、柔らかく弾力があり、しっとりと艶がある。

 俺は名探偵オナンよろしく、その正体に気がついた。


 手だ――――つまりは2本の腕が俺の中に入り込み、俺をもてあぶようにかき回していたのだ。


 この状況、俺は知っている――――こ、これはまさか!

 風○?

 

 じゃあ、今されていることは、そういうことなのかぁ?

 俺は――――ロー◯ョンになっちまったのか!?


 落ち着け。

 こうなる前、何してたか思い出せ。

 そう俺は――――。



 俺は薬物依存ジャンキーだ。

 清掃のバイトをしている俺は、仕事でのイライラをドラッグで解消していた。

 

 きっかけは昔の悪友からの誘惑。

 少し分けてもらったドラッグを、興味本意でやり始めたのがきっかけだ。

 それ以来、気分が乗らない時はドラッグを使い、天にも昇る気分を味わっていた。


 その日の俺はムシャクシャしていた。

 いつもより多くの量を投与。

 さすがに効き目が強すぎたのか、しばらくしてハイになるどころか、気分が悪くなり意識が何度も飛びそうになった。

 胸を殴られたような息苦しさに見舞われ、手足が痺れて痙攣。

 そのまま倒れた。


 次第に苦しさが収まると、ドラッグが効いてきたのか、脳の快楽中枢をくすぐられ、気分が良くなる。

 脱力感が心地いい。

 まるで身体が形を保てず溶けてしまい、床に染み込んでいくようだ。


 あえて表現するなら、"液体"


 ドラッグでハイになった俺は……まるで魂が身体を置き去りにして、抜け出てしまったかのように……。



 そうだったのか……俺はドラッグのやりすぎでショック死したんだな。


 だからって、転生したのが――――ロー◯ョンかよ!?


 つまんねぇ人生だったけど、クスリで一生を棒に振って、最後が薬漬けなんて……泣けてくるぜ……。


 あ! これロー◯ョンが垂れてるだけか。

 

 あーぁ……またロー◯ョンからだが持ち上げられる。

 その時、俺のボヤケた視界に飛び込んで来たのは、女神もその美しさにかなうまいと悟り、恥じらい顔を背けてしまうほどの美女がいた。


 しかも下着姿で!


 ぬぁ!? なな、なんて綺麗な風○嬢ビッチだ!


 羽衣のような光沢を放つ黒髪ロング。

 細く整った眉。

 花ビラのように、なめらかな尖りなをみせるアゴ。

 張りのある美白は、磁石のように吸い付きたくなる。

 なにより、その黒い瞳には薄っすらと茶色味がかかっていて、"日本人"離れした容姿だった。


 見惚れてしまう……とても、同じ国に生まれ育ったとは思えない。



「オ客サン。ウチノオ店ハ初メテデスカ?」


 日本人じゃねぇのかよ!?


 くそぉ! 今の俺は客ではなくロー◯ョンだ。

 こんな女神ビッチを目の前にして、何もできない。


 その後も彼女はロー◯ョンおれを、まるで小河で遊ぶ小鳥のように、パシャパシャと音を立てながらかき回し、なめらかなになったか確かめる為、しきりに持ち上げては桶に垂らし、垂れたロー◯ョンおれを再び持ち上げる。


 そして、ようやく使い勝手がよくなったのか、ロー◯ョンおれを大量にすくいあげた。


 いよいよ、"生まれ変わった"俺の、役割を果たす時。


 納得はしてないが、つまんない人生に見切りをつけ、努力と向上心を失い挙げ句ドラッグに溺れた罰なのかもしれない。

 諦めてこのままロー◯ョンどうぐとして使命を果たすしかない。


 そんな焦燥の中から得た覚悟に、気持ちが傾き始めた時だった。

 この美しい女神ビッチはドジっ娘のようだ。

 その艶めかしい足に桶を当て、ロー◯ョンおれをひっくり返した。

 


ぬわぁぁぁあああ!?

身体がバラバラににるぅ!


「ア~イ~ヤ~……」


 女神ビッチの戸惑う吐息が遠ざかって行くと、まるで滝から真っ逆さまに落ちたように急降下。

 排水口に落ちたのだった。


 ふぅうぇぇぇえええ!!?


 重力に逆らうことなく垂れ流されるロー◯ョンおれ

 ジェットコースターのように真っ逆さまに流れて行く。


 排水口の中で勢いよく回りながらさらに落ちる。


 ひぇぇええ! 目が回るぅぅぅううう!!?


 なせだか解らないが、果てしなく闇が続く排水口の先が、光っていた。


 そして――――――――。


 俺は目覚めた。

 いや、また転生したのか?


 さっきまで液体だったのか、自分の身体の部位に違和感がある。

 浮き上がった大小様々な5本の角。

 それが自分の手だと気が付くのに、数秒かかる。

 見渡すと、電気の消えた暗い部屋。

 自室は目を一周させれば十分把握できる程の狭い空間。

 それを散らばった私物がさらに狭くさせる。  


 閉め切ったカーテンの隙間から、太陽の光が差し込み2本の足を照らすと、それが自分の足であることが解った。

 その後、自分が持つ感覚器官で身体をまさぐり、俺が人間だというのを自覚した。 


 そうか……トリップだったのか……。


 だが1つだけ、トリップじゃない物があった。


 ――――使用したドラッグの跡――――


 俺はこんな物で、危うく命を落とすところだったんだな……。

 

 今回のことでよく解った。

 このままだと、次は死ぬ。

 いや、たとえ生きてても先は長くない。


 焦燥の中から再び、現実で覚悟を固める。

 ドラッグの使用を世にさらし、しかるべき施設で更生プログラムを受ける。


 死ぬ思いをしてようやく解った。


 身体がコントロールを取り戻し、やじろべえのようにフラフラしながら立ちあがる。

 鉛のように頭が重く首が座らない。

 意識をしっかり持ち身体を叱りつけるように言うことをきかせ、真っ直ぐ立つ。


 外へ出たら、俺は本当の意味で"生まれ変わんなきゃいけない"


 だが、その前に裁判や更生施設に入ると、今までみたいな自由がない。


 だから――――。 


「先に……風○でヌくか」





             完

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