第1話
星名にある、大陸一の魔法学校「星ノ魔法学校」には、大陸中から魔法を学びたいと願う者達が集まる。星ノ宮魔法は中高一貫校で、庶民から王族にまでわたる生徒達が、日々勉学に励んでいた。そんな、星ノ魔法学校に入学する事になった
「どうして、こうなったんだ?」
そう言って、またため息をついた。梓は、とりあえず考え込むのをやめようと頭を左右に振った。こうしていたって仕方がない。もう後戻りなんてできないのだから。大丈夫。きっと上手くいく。梓は自分に言い聞かせて、足を進める。
「とりあえず、くそ長い入学式を耐える。これだけに集中する」
梓は目の前にある大きな校舎を見上げてそう言った。
*
入学式を眠気を耐えつつ終えたあと、事前に自宅に郵便で送られていた資料を見ながら、梓は廊下を歩いていた。
「確か、クラスに行けって言ってたよな」
資料に書かれたクラスはS。どうやら、この学校のクラスはS〜DまでありSが一番優秀なクラスのようだった。
「俺が最優秀クラス、ねぇ」
自嘲するように笑いながら、Sクラスを目指す。校舎は中学校舎と高校校舎に別れていて、両方とも四階建てになっている。
梓は高校生として入学したので、高校校舎がある方へ向かう。
校舎の中はどこも綺麗で、思わず感嘆してしまう。流石大陸一の魔法学校だなと梓は思った。十分程歩いてSクラスに着く。深呼吸をした後、扉に手をかける。ゆっくり扉を開くと、いち早く着いていた生徒数名が梓を見て、また視線を戻した。教室に入り、黒板の座席表を確認する。座席は名前の順にはなっておらず、法則がわからなかった。梓の席は窓側の一番後ろだったので、とりあえず席に着く。鞄を置いて一息つき、窓の外を見ると桜が舞っていた。
「ねぇ」
「…俺?」
突然声をかけられ一瞬固まった梓は、直ぐに我に返って返事をした。
「うん。私、
優希は微笑んで手を差し出した。
「寄木梓。よろしく」
「梓?可愛い名前ね。あぁ、悪気がある訳じゃないのよ?」
「女みたいってよく言われる」
「でしょうね」
優希はクスクスと楽しそうに笑った。そんな彼女を、梓は見つめた。
金色の髪は腰まで伸ばしてあり、さらさらと風に揺れている。優しげな目は優希の人柄を表すようだった。
「ねぇ、梓って呼んでもいい?私も優希でいいから」
梓が頷くと、優希は嬉しそうにありがとうと言った。
「ねぇ、梓。あなたどこの国から来たの?」
「大陸の外」
「え?!そうなの?珍しいわね」
「長旅だった」
梓がため息をつくと、優希は苦笑した。
「私は彩雅出身なの」
「ああ、魔法具で有名な」
「そうそう!私の家も魔法具を作ってるのよ。作って欲しい魔法具があったら言ってね!いつでも注文受け付けるわよ!」
「それ、友達割引とかあんの?」
優希はきょとんとした顔をして、それから笑った。
「勿論!」
「そりゃどうも」
梓も笑顔を浮かべると、前の席に人が座ったので、前に目を向けた。梓の前に座ったのは男子生徒で、柔らかな茶色の毛が揺れていた。目線に気づいたのか、後ろを振り返ってくる。
「あ、はじめまして!
コウは無邪気に言うと、ぺこりと頭を下げた。
「寄木梓。よろしく」
「立花優希です。コウって呼んでも良い?」
「もちろん!優希って呼ぶね!あと梓!」
「はいはい」
梓が呆れたように言うのも構わず、コウは続けた。
「ねえねえ!二人はどこから来たの?」
「私は彩雅。梓は大陸の外から来たんだって」
「本当?凄いね…遠いのに…。コウは凰華だよ!」
「大陸の中心的な国、だよな?」
「そうだよ!重要な会議とかは凰華で行われるんだぁ」
コウの説明に梓はふぅん、と頷く。
「ねえねえ!ところで二人とも、このクラスに王族が二人来るって知ってた??」
「二人もか?」
梓が驚いたように言うと、コウは興奮気味に言った。
「そうなんだよ!一人は星名の第三王子、もう一人は真麗の第四王子だって!」
「喧嘩とか起きないと良いけど…」
優希が心配そうに言うと、流石に大丈夫でしょ、とコウが言った。
「どうしよう、コウ王族見るの初めてなんだけど…!!」
「そんなの私だってそうよ!」
王子はどんな人なのだろうか、という二人の話し合いを聞き流しながら、梓はまた窓の外を見た。何とか、この学校でやっていけそうな気がする。既に二人も友達とやらが出来た。王族が二人もクラスにいるというのが不安材料になってはいるが、些細な事だろう。
三年。たった三年この学校に通えば良い。それでもう国に帰れる。
「俺は、本当に国に帰りたいのか?」
少し考えたが、わからなかった。
梓は優希とコウに目を向ける。いまだ王子の話で盛り上がっている二人。その様子を見て、笑みが浮かぶ。
こんな生活も良いかもしれない。友達と学校に通う、そんな生活。平和で、楽しくて、笑いが耐えない生活。
「俺には似合わないけど」
でも、梓は三年間だけなら、許されると思った。楽しく生きたって良いじゃないかと思った。
「だってこれは、俺の三年間だ」
「梓?なんか言った??」
コウが頭をかしげる。
「別に」
「そー?ねえねえ梓、王子ってやっぱりイケメンかな?!」
「知らねぇよ」
「あれ、てか梓もめっちゃイケメンじゃない?!え!!許せないんだけど!!」
「遅くない??私は最初から思ってたわよ」
「はぁ??」
「ちょっと!イケメン三人になるって事?!」
「いいえ、まだ増えるかも知れないわ!」
「そんなのコウは許さないよ!」
「何言ってんだお前ら…」
梓が笑うと、ほらイケメン!!イケメンが笑った!!!とコウがはやし立てる。そんなコウを諦めなさい、と優希が諭す。
「騒がしいな、本当」
梓は、少しだけ、心の中の不安が無くなったような気がした。
その空いた部分に、期待が溢れたような気も、していた。
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