第30話 チャクラムは練習不足
「
「バカバカしい、おいらたちもナメられたもんだべなぁ」
自分をあざける彼らに九尾の怒りは頂点に達する。
「おのれ、おのれオサキ風情がぁ、目にもの見せてくれるわ!」
九尾は短刀を振り下ろしては空を薙ぐを繰り返す。そのたびに斬撃が
「え——い、しゃらくせぇヤツめ。ムチ、ナギ、行くべ」
長兄のシイがそういうと三人の
「ここからは手加減なしだべ」
「みんなまとめてやっつけてやんべ」
言うが早いかシイとムチは絶妙なコンビネーションでビームを放つ。しかし末の妹のナギだけは相変わらず
「ナギよ、お前ぇはそこで一太を守れ!」
シイとムチは縦横無尽に動き回っては雑木を巧みに利用して地の利を生かした攻撃を仕掛けてくる。それに対してこちらの飛び道具は九尾の短刀のみ、
飛び交うビームをかわしながら九尾が声を上げる。
「よもぎ、
「よ――し、よもぎも負けてられません」
よもぎはいつでも応戦できるようにと身構えていたホルスターの短剣から手を離すと、今度は右手を胸の前に掲げて念ずるように静かに目を閉じる。
するとよもぎの右手には金色の
「今のは威嚇だ、次は外さねぇべ」
続く二発目がよもぎの胸元を狙う。しかしそれは瞬時に半透明になったよもぎの
「あんたたちはやり過ぎです。よもぎは激おこです!」
実体化して再び身構えるよもぎだったが、しかしまるで電池が切れたオモチャのように
ここぞとばかりによもぎを狙うシイとムチの攻撃を九尾と
「な、何をしておるのじゃ。さっさと
「……」
「は、早くせんか。
「おい、よもぎどうしたんだ」
「よもぎちゃん、しっかりして」
ヒロキと可憐もバリヤーの中からエールを送る。その声に応えるかのように振り向いたよもぎの顔は困り果てたような情けない表情が浮かんでいた。
「まさかあいつ、
ヒロキの声で我に返ったよもぎは手にした戦輪を敵に向かって放り投げた。金色の輪がまるで夜店の輪投げのように緩い放物線を描く。
「なめんな、このド素人が!」
シイのビームが
「何をやっておるのじゃ、真面目にやらんか!」
「やってます! でもでも、初めてだし……」
「え――い、
そう言うと九尾は二匹のオサキを狙うよう刃を構える。小さな
「猫よ、
「承知しました、おかませください」
光芒一閃、九尾が振るう斬撃が二匹を襲う。
瞬時に避けたシイが飛び退きざまに地を這うようなビームを放つ。
すかさずジャンプしてやり過ごす九尾が今度はムチ目掛けて刃を振るう。一瞬の隙を突いて光線を放つシイ、その攻撃を鋼鉄の爪で破砕する
「そっか、よもぎ解っちゃいました。こんなときは元を断てばいいんです」
あの測定器なるものを破壊すればシイとムチのビームも止まるのではないか。そう考えたよもぎは頓狂な声を上げるとバリヤーの向こうから様子をうかがうヒロキと可憐に向けて余裕の笑みを見せた。
よもぎは手にした
一直線に飛ぶ金色の輪、シイとムチが気づいたとき、それは既に静かに唸る測定器に届かんとしていた。
「しまった。ナギ、頼んだべ!」
「えっ、えい!」
次兄のムチが叫ぶとそれに呼応して
ナギのビームが
「ご無事ですか、よもぎ様」
今、よもぎの目の前には
一方でよもぎが放った戦輪は頑丈な測定器の筐体の前にはなす術もなく砕け散ってしまった。
「
よもぎは左右の腰に下がるホルスターから短剣を抜くと二刀流の要領でそれを構えた。
「よもぎのやつ、まさかとは思ってたけど、そんなものまでコピーしてたのか」
「ヒロキ、あれってもしかして」
「
「えっ、私が?」
「ああ、前にシロがそう言ってた、可憐が見てるのを真似してみた、って」
「き、記憶にございません……」
バリヤーの中で呆れた顔をするヒロキたち二人だったが、かつてそのナイフで痛い目を見た九尾はよもぎが手にするその武器に顔を
「浮遊霊ごときが、そんな小っさい得物でおいらたちに勝てるわけがねぇべ」
相変わらず強気な口調でビームを構えるムチによもぎは照準を合わせるように左手の短剣を構える。
メカニカルな
かろうじてかわしたとは言え、予想外の出来事に声も出ない二匹だったが、我に返ったムチが大声で叫んだ。
「な、なんだべ、それは! あ、危ないっぺ!」
そんなムチを指さしながら九尾が笑い声をあげる。
「にゃははは、見たか、よもぎよ。
「なるほど、さすがに血は争えないってことだな、九尾」
バリアの向こうでヒロキも声を上げて笑った。
「よもぎ、そのまま測定器も狙うんだ」
「もちろんです!」
ヒロキの声に応えるようによもぎは金属バネがだらしなく垂れ下がった左手の残骸を打ち捨てると、片膝をついてもう一本の刃先で測定器を狙う。両手でしっかりと狙いを定めてよもぎはトリガー代わりの
再び鈍い射出音、その反動でよもぎの肩とトレードマークの小さなおさげ髪が微かに揺れた。
一直線の軌跡で刀身が測定器に命中する。頑丈なパネルの隙間に突き立った刀身、そこ狙って今度は
「おまかせください!」
ゆがむ筐体と飛び散る火花、なおも鋼鉄の爪を突き立てる銀、やがて筐体を覆うスチールの一部がめくれ上がってそこに僅かな隙間ができた。
「ヒロキ、これを」
その様子を見ていた可憐が手にしたペットボトルのキャップを開けて、それをヒロキに手渡した。
「よし、これでおしまいだ。
ヒロキは火花散る測定器を狙って水が満たされたペットボトルを放り投げた。ヒロキの声を聞いた
弾ける水しぶきが測定器に降り注ぐ。ショートする火花と立ち上る蒸気。
「それ、もう一本だ」
「させるかぁ――!」
ヒロキが二本目を放り上げると、そうはさせまいと長兄のシイが声を上げてペットボトルを迎撃する。高温のプラズマと水が満たされたボトル、目標に到達する直前にそれは
一瞬にして蒸気となった水が周囲のすべてを覆い隠す。その隙を突いて
「な、何が起きているんだ。僕は何をしているんだ」
プラズマの炸裂と測定器が破壊された衝撃で意識を揺さぶられた
「カズタ、
一太の目の前では二匹のオサキを相手にメイド姿の幼女とバトルスーツの少女が戦いを繰り広げている。そこから数メートルほどの場所ではバリヤーに護られたヒロキと可憐がその様子を見守っていた。
「太田君、
すると一太の目の前に鈍い光を放つ刃が突き付けられた。今にも突き刺さんと怒りに満ちた眼差しで
「あの者たちを止めてください。あなたにしかできないことです」
「ちょっと待ってくれ。き、君はメイドさん? なんでこんなところに……」
「説明は後です、いいから早く止めなさい!」
「わ、わかった」
一太は二匹のオサキに命じるように叫んだ。
「シイ、ムチ、そこまでだ。もういい、やめるんだ!」
その声に戦いの手を止める二匹だったが、シイが一太に向けて右手を挙げた。
「もう終わりだべ。どうせお
半ば
なんと、今まで怯えていたナギが力を振り絞って兄を迎撃したのだった。
「ナ、ナギ、お
見境いなくシイとムチが撃ちまくるビームから一太を護ろうとナギと
測定器が破壊された今、彼らオサキたちに負イオンを供給する手立てはない。よってその攻撃は間もなく止まることだろう。
しかしそれはいつなのだ。
それまでに彼らを改心させることはできるのか。
そのとき
「見守りもするし、見逃しもする」
そうか、そう言うことか。
シロの言葉の意味が解った可憐がバリアーの中から声を上げた。
「よもぎちゃん!
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