寝たふりで先輩を誘惑する後輩VSタオルケットをかけてあげる思春期の先輩①
1.無防備に寝てしまった後輩にタオルケットをかけてあげる先輩の話
「せんぱい、喉乾きませんか?」
夏休みも終わりの足音が聞こえ始めた8月24日。
愚かな後輩が「課題が終わらないので助けてください」などと抜かして我が家に上がりこみ、それから3時間ほど経った。
彼女は欠伸を噛み殺しながら、飲み物を持ってこいなどと要求し始める。
直接的に、飲み物をください、とは言おうとしないくせに、そうだなー、などの適当な相槌を打つだけだと、たちまち機嫌を悪くしてじとっと睨め付けてくるのだからたちが悪い。
それに屈するのはどうにも癪で、初めは無視してやろうと思ったのだが、眠そうに落ちかけているまぶたと、ほとんど進んでいない課題を見て気が変わった。
このまま長居されては敵わん。
私は一つため息を吐くと、ふかふかのソファーを離れ、キッチンに向かった。
何か冷たい飲み物はないかと冷蔵庫を漁れば、ちょうどいいことにペットボトルのアイスコーヒーがあった。
それを自分の分と後輩の分、百均のコップにとくとくと注いで、とんでもないことに気がついた。
後輩の姿が見えない。
しかし我が家はボロく小さなアパートであり、キッチンからはリビング全体が見渡せるのである。つまり、隠れられる場所などありはしない。
だが実際に後輩の姿はない。
これは一体どういうことなのか。……いや、わかっているとも。事実とは常にシンプルなものだ。
私は両手に持ったコップをテーブルに置き、マリアナ海溝よりも深いため息を吐いて、ソファーに腰掛けた。
どうやら、手遅れだったらしい。
後輩は床に丸まって、穏やかな寝息を立てていた。
しばらく無心で眺めていると、彼女はあまり寝相が良くない方らしく、何度も寝返りを打った。
その度に、むわっとした女の匂いが香る。
冷房が壊れかけているせいか中途半端に蒸し暑い空気のこもった部屋に、うっすらと汗ばんだ女の体臭が、扇風機によって攪拌される。
控えめに言って、地獄だった。
十人中十人が美少女だと認めるであろう女の、その体臭が充満した部屋である。
しかもその女はといえば、ぐっすりと眠りこけているときた。
こんな状況の中、冷静であれる男がどれほどいようか。
辛うじてではあるものの、どうにか踏みとどまっている私は、聖人君子や仙人の域に片足を浸していると言っても過言ではないだろう。
そうだ。ならばこうしてはいられない。
麗しき後輩は、扇風機と冷房、両方の風が当たる位置にいる。彼女の服装はキャミソールとホットパンツ、本来ならば薄手のカーディガンもそこに加わるのだが、暑いからと脱ぎ捨てられており、いくら夏であるとはいっても、このままでは風邪を引いてしまうに違いない。
私は寝室に向かい、適当なタオルケットを見繕った。
リビングに戻り、出来るだけ呼吸をしないようにしながら、彼女のもとへ寄る。
いざタオルケットをかけようとしたそのとき、彼女は苦しげに呻き、ホットパンツのボタンを外した。その拍子にファスナーが下がり、ちらちらとレースのショーツが覗く。
たらり、鼻血が顎を伝う。
私は慌ててティッシュを鼻に詰め、目線を逸らした。
すると、今度はなまっちろいふとももが視界を埋め尽くした。
肉付きのいい後輩のふとももは、咄嗟に私の視線を釘付けにする。
(ダメダメだダメだ‼︎)
私は抗いがたき淫靡な誘惑から必死に逃げ、次に、寝息に合わせ上下するたわわ。双子の巨峰を捉える。
ただそこにあるだけにも関わらず、それらはキャミソールと自身の狭間でむにむにと形を変え、凄まじい存在感を放つ。
(だからダメだって言ってんだろ!?)
再び目を逸らそうとして、さらけ出された肩が目についた。
ほぼ無意識の行動で、一瞬なぜそこに目が留まったのかと思ったが、その疑問はすぐに霧散した。
「ひもっ!?」
紐が、なかったのである。
当然キャミソールの肩紐はある。
しかしそうではない。そうではないのだ。もう一つ、本来あるべき紐がないのだ。言わずもがな、アレである。たわわを覆う、アレ。
そう、つまり。ノーブラというやつである可能性があるのだ。
いやいやしかし、しかしである。単に紐のないタイプのブラジャーという可能性もあるではないか、と内なる天使が囁く。すかさず、内なる悪魔が、ならばよく見て判断すればよいだろう、と宣った。
私は大声で叫び散らす悪魔に逆らえず、視線を少し下へ戻した。
よくよく見てみれば、たわわの頂点に位置するキャミソールの部分が、わずかに膨らんでいるように見える。
これは、そういうことなのか……? 悪い部分が疼き出す。
私は今、試されていた。
男ならば、この誘惑に抗えなくて当然ではないか。むしろ男の家でこのような無防備を晒している後輩が悪いのであって、私が気の迷いを起こすのも仕方がないと言えるのではないか。
そんな思いがむくむくと鎌首をもたげる。
しかし、しかしである。
私の中に残った一欠片の倫理観が騒ぎ立てるのだ。
貴様はそんなことをする卑劣漢だったのか、恥を知れい、と。
たしかにそうなのだ。もしこのまま手を出せば、私は卑劣な性犯罪者と化してしまう。
私は頭を抱え、無音で転げ回った。
ふと、床に放置されている彼女のバッグが目に留まった。いや、正確には、そこから転がり出そうになっている、開封済みのコンドームの箱に、である。
スッと頭が冷えた。
そうか。そうだったのか。そりゃそうである。
我が後輩は私と居てくれることが不思議なくらい美人なのだ。彼女とて思春期の女子なのだから、性欲だってあるだろうし、都合のいいことによってくる男どもには顔のいい輩も多い。
ならばどういう行動が男心をくすぐるかなど熟知しているだろうし、気の無い相手を勘違いさせるようなこともしないだろう。
つまり、私は彼女に男として見られてすらいなかったのである。
冷静になった私は、後輩様にタオルケットをかけて差し上げ、ソファーで横になって目を瞑った。
頭の中ではずっと弱々しく叫び続けていた過去のトラウマどもが、一斉に哄笑を響かせ始めていた。
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