性的に虐待されている後輩の幸福と日常の話◆
暗い部屋。
数ヶ月前には切れてしまった蛍光灯と、飲みかけの酒瓶。
申し訳程度に作られた空きスペースには、下着を入れるタンスと、その取手にかけられたハンガー。
これが私に与えられた居場所。
くだらない、消費の場。
ガチャリ、玄関の開く音がした。
複数人の足音と、義父の声が聞こえる。
あぁ、今日は人を連れて来たのか。
私には裸になって、制服を汚されないよう片づけておくことしかできない。
そうしないと、食べるものが貰えないから拒否なんてできない。
逃げることも。母さんは、逃げて殺されたから、できない。
大丈夫、我慢していればすぐに終わる。最近は痛みも薄れてきた。
だから、大丈夫、大丈夫。
昼休みの屋上。
私と先輩だけの密会所。
屋上は立ち入り禁止だから、私たち以外に誰かが来ることはない。
昔飛び降り自殺した人がいたらしい、というのもあって、そもそも誰も近寄りすらしない。
三棟三階東側にある階段を上って、私は手摺の穴の中に隠された鍵でドアを開けた。
「や、先輩」
踊り場から持って来た古い机と椅子。そこに腰掛け、先輩はお弁当を食べていた。
「よ、彩瀬」
先輩は軽く応じて、昼食に戻る。
貯水槽にもたれて、その姿を見下ろしながら昼食を食べるのが私の日課だった。
二人が食べ終わると、雑談タイムだ。ほとんど私が一方的に喋って、先輩は相槌をうつだけの、私にとっては幸福の時間。
「それがさ、
ヘラヘラと笑ってなんでも無いように言う。
数ヶ月前にバレてしまってからは、特に隠したりはしていない。
まあもともと隠すつもりもなかったのだけど。
「人数が多いもんだから大変で。もう最悪って感じ。先輩はしたことある? お尻の穴。あれって痛いんだよね。始めてじゃないから、まだマシだったけどさ。それでもやっぱ痛いものは痛いし」
こうして話してみると、結構楽になる気がするんだ。
「しかもさ? 前も後ろも、それどころか口ってか喉の奥まで同時にだよ? 一人はずっとおっぱい吸ってるしさー、ほんと意味わかんない。内臓破れそうで痛いのなんのって」
ようは事実の軽量化。
言葉にしてしまうことで嫌な現実が簡素でなんでもないものへと希釈される。
「髪も引っ張られるし。なに、私を将来ハゲさせたいの? って。それに、どいつもこいつもいい年したおっさんなんだよね。もう臭い臭い。挙げ句の果てに、三日間お風呂に入ってないことを自慢しだしたりさ。いやいや、せめてお風呂くらい入ってこいよって話」
それに、普段無表情な先輩が顔を顰めているのを見るのも、なんかちょっと楽しい。
しょうもない同情とか、慰めとか、そういうのがないのも楽でいい。
昼休みが終わると、私たちはそれぞれの教室に戻って、また次の学校がある日の昼休みまで会うことはない。
先輩とは、そういう関係。
学校が終わると、私は図書館だとか、レンタルショップの音楽コーナーとかで時間を潰す。
たまに先輩と誰かが話しているのを見かけたりすると、気分が良くなる。
先輩は取り繕ったような下手くそな作り笑いで、どう見たって無理をしている。
先輩が無理に取り繕ったりしないで接してくれるのは私だけ、とかだったら、少し嬉しくなってしまう。
それから夜になると義父が帰ってきて、雑に抱かれる。終わると次の日の分の食費が渡されるから、私はシャワーを浴びて、次の日の朝ごはんを買いにコンビニへ行く。家に帰り、部屋の隅っこに背中を預けて、明日はどんな話をしようかなんて考えながら眠る。
そんな日常。
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