後輩に看取られて死にたい話
【俯瞰的風景画】
俺の描いたクソみたいな絵を見て、後輩は言った。
「お疲れさまです」
久々の温かい言葉が、胸に沁みる。
何か言い返そうとしたけれど、それも面倒になってタバコを咥えた。
「どうぞ」
タイミングよく横からライターが差し出される。
後輩は見上げるようにニコッと笑った。
「お前、こないだまでタバコはダメですーとか言ってなかったか?」
「そうでしたっけ? ま、いいじゃないですか、もう」
唇に指を当てて、後輩はにへらと笑う。
釣られて俺もふっと笑った。
「それもそうか」
「そうですよ」
自分で描いた地獄絵図を、ボーッと眺めた。
死だ。死と、物寂しい静けさだけがある。
そこかしこから黒い煙が上がっていた。
我ながら、酷い光景だと思う。
向こう数十年は、人の住めない土地になりそうで。
「なあ」
「なんですか、せんぱい」
「平和だな」
「ええ。平和になりました」
目を細め、煙を吐いた。
「なあ」
「なんですか、せんぱい」
「俺は、間違ったのか?」
「いいえ、せんぱいは間違ってなんかいません」
煙が変なところに入って噎せる。
「なあ」
「なんですか、せんぱい」
「悪かったな、こんなとこまで付き合わせて」
「いいんです。わたしがせんぱいについて来たかっただけですから」
俺もバカだがこいつも大概だな、と思う。
「なあ」
声が震えた。
「なんですか、せんぱい」
「ありがとな」
後輩は目尻に涙を溜めて頷く。
「はい」
そんな顔するなよ。俺まで泣きそうになる。
言おうとして、糸が切れたみたいに力が抜けた。
背中から地面に倒れる。
少し、寒かった。
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