第50話:祝福されし令嬢

 ヴァカスに裏切られたアリスは今日、ウィルと結婚し将来は獣人国の王妃となる。


 白いウェディングドレスを纏う姿は全ての民を魅了した。


「何て美しい令嬢なのでしょう」「ウィル様が羨ましい」


 稀代の魔術師と言われる令嬢が受けた仕打ちを皆は知って居る。


 侯爵家の令嬢で有りながら、平民のような生活を強いられたのは、他ならぬマデリーンと言うヒロインの所為せいだと知れ渡って居た。


 ここは乙女ゲーム世界では無い、アースフィルと言う世界で命が育まれ人々の生活が見え隠れする、普通の世界。


 その事に気付かなかったマデリーンが引き起こした物語は終止符が打たれ、本来、有るべき物語が始まりつつある。


「アリスフィーヌ嬢とウィル王子の結婚式を執り行う。ウィル王子、永遠の愛を誓うか?」


「誓います」


「アリスフィーヌ嬢、永遠の愛を誓うか?」


「・・・誓います・・・」


「互いに誓いの指輪を嵌め、約束の口づけを交わし、婚姻の成立とする」


 ウィルはアリスの左手を取ると、用意して居た指輪を嵌め


「綺麗だ・・・ヴァカスに邪魔されて言えなかったけど、最高に綺麗だ」


 と嬉しそうに微笑んだ。


 アリスもウィルの左手に指輪を嵌め


「ありがとう・・・ウィル・・・」


 と初めて呼び捨てにしたのだ。


 ヴェールが上げられ、薄く化粧が施されたアリスの素顔が晒され永遠の愛を誓う口づけが交わされる。


 唇と唇が重ねられた瞬間、教会の鐘が二人の新たな門出を祝うべく、リンゴン・・・リンゴンと鳴り響いた。


 ウィルと人族令嬢の結婚に反対して居た一派は、その幻想的な光景に反対の意を唱える事すら無駄で有ると悟ってしまった。


 妖精たちが花々を散らし、周辺を舞う姿が見えて居るのだ。


【姫様おめでとう】【姫様、お幸せに~】


【ウィルに泣かされたら戻って来て良いのよ?】


「ま、まあ・・・(くすくす)」


「な、泣かせる訳が無いだろう?!精霊王に誓って生涯、幸せにすると誓う!」


 ウィルの宣言が王にも届き


【そなたに風の加護を授けよう】


 と加護が授けられ、ウィルにも精霊や妖精の姿が常に見えるようになる。


【私たちの姫を宜しくお願いします】


 同時に声が届くようにもなり会話が交わされる。


【ああ。大事にするよ】


 感極まったアリスは、ポロポロと涙を流す。


「うれし涙・・・だよね?」


「はい、とても言い表せない程の幸せなのです。精霊たちも判って居ますわ」


 エスコートしながらバルコニーが有る2階へと向かう。


「・・・不安は無い?」


 獣人の国に嫁ぐだけでも不安だろう、ましてや嫁ぎ先は王族で第一王子。


 王妃になる為の知識は持って居ると断言できるだろう。


 しかしながら、不安だろうと推測した故の言葉だった。


「・・・ウィルが支えてくれるでしょう?ならば何も不安は無いわ」


 何とも素晴らしい考えを持って居るのだろう、とウィルが惚れ直したのは言うまでも無い。


 こうして裏切られた令嬢は獣人の王族に嫁ぐ・・・と言う信じられない残念劇に幕を閉じ、幸せな日々を生涯、送ったと歴史書に刻まれる事となる


完・・・と思いきやエピローグへ続く

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