第49話:幸福な瞬間を壊す者3

 アリスが婚礼衣装に身を包みルーカスの迎えを待って居た。


「アリスフィーヌ様、大丈夫で御座いますか?」


 ヴァカスが命を狙う為に逃走し、この城の何処かに居る・・・それだけでも恐怖なのだが、魔術を使っても居場所が確定できなかった。


 それ故に恐ろしさにさいなまれて居る。


【姫よ、ヴァカスは本来の姿を隠し巧妙に姫が居る部屋へと近づいて居るようなのだが、何処に居るかが我らでも判らぬ】


 闇の精霊も風の精霊も見分ける事が出来ないヴァカス。


 じわり、じわりと襲撃する体制を整えて居るだろう。


「アリスお嬢様・・・お時間に御座います」


 不安は尽きないが王様や招いた来賓を待たせる訳にも行かない。


 ルーカスも戦える体制は取って居るが、アリスを守りながらは難しい状態。


 ゆっくりと立ち上がったアリスに侍女がヴェールを被せ


「ウィル様とお幸せに」


 と送り出す言葉を発した。


「・・・ありがとう・・・」


 ルーカスに手を引かれ衣擦れの音だけが室内に響く。


 入り口を守る騎士が扉を開くと、マギーとアメリアが護衛をする体制で近づく。


「お美しいですわアリス様」「マギー様、アメリア様」


 何処から襲撃をするか、把握できて居ないが式場までの護衛は初めから付く予定では有った。


 が、ヴァカスが居ると知ってからは更に強化した体制となって居る。


 花々が飾られた回廊を通り、式典会場となる礼拝堂へと進んで行く・・・


「アリスゥッ!死ねぇっ!!」


 頭に飾りとして用意されて居た花々を刺し、ボロボロな着衣にすら花を施し、顔に泥を塗りたくった、その姿は滑稽でマギーとアメリアは笑い出してしまった。


「「あっははははははははっ!!」」


「マ、マギー様?アメリア様?如何なされ・・・ぷっ・・・」


 腹を抱えて笑う二人に戸惑ったアリスでは有るが、2人の視線を追えば自ずと笑った理由を把握できた。


 ヴァカスが振り下ろした剣がアリスに届く筈もなく、護衛として付き従って居た騎士の手に弾かれ尻もちをついて居る。


「馬鹿だ・・・馬鹿だと思って居たけれど、ここまで馬鹿だと阿呆の方がシックリ来るわね」


「確かにぃ~、物語に登場するヴァカスは馬鹿な事をしたと北方で反省してからは良き領主になるべく勉強を怠らず、素晴らしい領主になったのに現実は・・・」


「阿呆だな」


 そこへ駆けつけたアイザックとウィルが、尻もちをついて弾かれてしまった剣を探す、阿呆な姿を晒すヴァカスを見下ろした。


「アリスフィーヌをこちらに渡せ!その女狐は私の愛しいマデリーンを追い詰めただけで無く、私を廃嫡へ追い込んだ元凶だ!!」


「「馬鹿なの?」」「「馬鹿なのか?」」


 ウィルたちに「馬鹿だろう」と断言されたヴァカスは呆けてしまう。


「なっ!?」


「女狐だったのはマデリーンだ。彼女は魅了の魔法を使って男性をはべらす為に近づいたに過ぎない。王子、宰相、騎士団長、魔法師長・・・彼らに粉を掛けたのは物語のシナリオだと思い込んで居たからだ」


「物語?シナリオ??」


「ともかくアリスを恨むのは筋違いだ。お前は大人しく北へと戻してやろう」


 アリスに目配せをすると、詠唱も無しにアリスが


転移魔法テレポート


 と魔法を発するとヴァカスの足元に魔法陣が描き出され、彼の姿は獣人王城から消え、アリス暗殺は未遂となった

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