第42話:閑話~囚人と化した王子

 アース国、北方に有る最も厳しい環境と指導者が居る、その砦に身1つで鍵の掛けられた馬車でヴァカスは向かって居た。


「私を誰だと思って居るのだ?!アース国の時期王だぞ!このような処遇が許される筈が無い!母上の耄碌もうろくに騙されるなっ!!私を此処から出せぇ!!」


 王子では無くなった事も王位継承権を失って居る事も、マデリーンが処刑されてしまった事も全て、かの如く、わめき散らす様は哀れすぎた。


「・・・ヴァカス様、貴方様は王妃さまより王位の継承権を剥奪されておりますので、次期王では有りません。そして何より王妃様は正気で御座います」


「なっ?!な、何故・・・私が何故・・・こんな辺鄙な場所に追いやられねばならぬのだ!全てアリスフィーヌの差し金で有ろう?!」


「いいえ。それは有り得ません。アリスフィーヌ様はウィル様と婚約が成立、やがては獣人の王妃となられる方。ヴァカス様に仇なす事など有り得ません」


 アースを守護する騎士団にも、アリスとウィルが来年には王位を継承し、新しい王と王妃になる事は通達されて居る。


 幸せの絶頂で有るアリスがヴァカスを恨んで何かしら事を起こすなど、有り得ないと断言できるのだ。


「アリスフィーヌ許さーん!!」


「・・・五月蠅うるさいですよ鹿王子」


 砦入り口で罪人と化した王子が送られて来る、と聞き及んで居た「鬼」が出迎える為に待ち構え、辛辣な言葉で迎え入れる。


「なっ?!」


「このように五月蠅い罪人は久方ぶりです。護衛騎士たちもご苦労様でした。此処から先は矯正を終えた者たちに連れて行って貰いますので、小休止なさいませ」


「ありがとうございます」


 やっと五月蠅さから解放される・・・と言う顔で、騎士たちの休憩場所へと向かい始める。


 鍵を開け、扉を開けた瞬間ヴァカスは息を飲み青ざめた。


 白い雪に囲まれた砦、寒々しい服装を着て居るにも関わらず普通に立って居る青年・・・首には罪の重さを表す品が付けられて居る光景が、ヴァカスには見えて居るからこそガタガタと震えて居たのだ。


「なさけないですね。元王族とも有ろう方が、このような罪深き者しか来ぬ地へと追いやられるとは・・・」


「どう言う事だ?」


「・・・そのままだ。この地は殺人、脅迫、誘拐、強姦・・・罪と言う罪を犯した者の中で、最も重い罪を犯した者だけが送られる地。王子だった者が送られて来る場所では本来無いのだが・・・」


 薄い生地で作られた上着とズボン・・・足下は足先が出て居るサンダルのような品。


 勿論、素足でしか履けない仕様になって居るが、ヴァカスに耐えられる訳が無いと思って居る。


「では囚人を部屋へ案内して、支給品と此処でのルールを教えなさい」


「畏まりました。さっさと出ろ」


 この砦において身分など関係が無い。


 王子だろうと平民だろうと同じ扱いを受ける。


 苦労などした事も自分で自分の着替えをした事も無いヴァカスが、生活できるとは思えないからこそ、指導者として彼が付く事になったのだが、貧乏くじを引いたとしか言えない

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