第19話:喜ぶ祖父

 玄関先にはアリスを慕って居た侍女たちが使用人として雇い直されて待ち構えて居た。


「・・・うそ・・・」


「「「「お帰りなさいませ、お嬢様!!」」」」


「良くぞ・・・良くご無事で御座いました、お嬢様」


「ルッ・・・ルーカス?!貴方、何時の間にお爺様の屋敷に?」


「マシュー様が断罪に向かった、と聞いた時で御座います。お嬢様が生活なさって居た場所をマシュー様はご存知ありません故、ご案内も兼ねて向かった次第で御座います」


 アリスが別邸に追いやられてた時に、持ち出せた自分の手荷物は、多くは無いが愛着有る品。


 祖父の養女になるから、と言って、そのまま置いて向かうのは忍びないだろうと考えてウィルがルーカスに頼んで居たのだ。


「お嬢様の荷物が、どれほど残されて居るか、判りませんでしたが、しいたげて居た者たちは、何も手を付けておりませんでしたので全て持ち出せました」


「そう・・・ではお母様の形見も・・・」


「はい。お嬢様が隠しておられましたので、売られる事なく無事で御座います」


 その言葉を聞いて驚いたのはマシュー。


「アイリスの形見じゃと?!そ、そんな品が残っておるのか!?」


「えぇ、お爺様。お母様の遺体からネックレスや指輪を外させて頂きましたし、病に伏せっておられた時から少しづつ、お父様にも気づかれないで有ろう別邸に、隠しておりましたの」


 屋敷の調度品を売られてしまった光景を目の当たりにして居たからこそ、その情報は嬉しすぎる情報だった。


「そうか・・・アイリスの形見は残っておったか・・・そうか・・・」


「お爺様?」


 自宅の惨状を知らないアリスが不思議そうに首を傾ける。


「この話は屋敷で行おう。ウィル様もご一緒にどうぞ。婚約許諾書へサインをせねばならんだろう?」


 もう既にマシューとしてはアリスが幸福になれるのなら、と決断をして居てくれたらしい。


 ウィルソン家として必要な書類を用意し、待って居たのだ。


「マシュー様、私とアリスフィーヌ嬢の婚約を認めて下さるのですか?私は、その・・・」


「獣人じゃろうが、人で有ろうが、アリスフィーヌを救った男では無いか。ヴァカス王子は気づいた時にはアリスでは無い別人に想いを寄せておった。それを噂で聞いておったからこそ、決断できたのだ」


 今まで苦労して来たで有ろうアリスを思いやる祖父の顔は、破顔して居る。


 それはそれは幸せそうに、自分の孫を娘と出来る幸せに満ちて居る。


 ニコニコと屋敷へと先導して行くマシューの背中は爺らしくなく、父のようにシャキっと背筋が伸び、アリスの養父たる背中を見せて居る。


「お爺様・・・」


 振り向いたマシューは少しだけ寂しそうに微笑み


「屋敷に入りなさい。これから結婚するまでは儂の屋敷がアリスの屋敷になるのだ。遠慮するでない」


 遠慮して居る訳では無いのだが、今まで使用人と言えばルーカスしかおらず、身の回りの事は妖精たちに願い出て居たにも関わらず、そこにはアリスを慕って居た侍女たちが嬉しそうに迎える姿が見えて居るのだ。


「はい・・・お爺様」


 うるうる、と涙腺が緩んでしまうが仕方ないだろう。


 今まで父や後妻、そして妹と名乗る女性から罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせられ続け食事すら、まともに提供されて来なかったのに、これからは衣食の心配をする必要がなくなるのだから

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