第20話:黒く染まる思惑

 アリスがウィルの婚約者となった・・・。


 その事を知ったギルヴィアは、今更ながらアリスの才能が惜しいと言う思いに駆られ始めた。


「アリスフィーヌ嬢の魔術は確かに惜しい。レンシスと婚約を結んで貰えるよう働きかけようと思っておったのに・・・」


「陛下!?(国交断絶だと言われて居るにも関わらず、どうやってアリスフィーヌ様とレンシル様を引き合わせるつもりなのだ?いや、そもそもアリスフィーヌ様はウィル様と婚約を結ぶ事が決定して居るでは無いか)」


 普通の状況ならば決定して居る事柄に、あらがうなど有り得ないのだが、今のギルヴィアに正しい判断をする事は皆無の状態。


 魔術師として一流のアリスを再びアースの妃として迎え入れなければ、国が守りの要を失う・・・そんな考えを持ってしまったが故なのだ。


「アリスフィーヌ嬢を獣人の国近郊に有るウィルソン邸に行き、連れ去って貰う事としよう」


 王の状態はよこしまな思いが強まった事を意味して居た。


「陛下?!如何いかがなされましたか?」


 王の呟きが聞こえなかったが故の質問。


 まさか、その事により何をしようと画策して居るのかを把握する事となろうとは、誰も思わない。


「宰相よ、アリスフィーヌ嬢とレンシスの婚約を結ぶべく、彼女を我が城へと王命により連れて参れ」


「恐れながら陛下、アリスフィーヌ様はヴァカス王子により国外追放されております。それを覆すには追放は間違いで有り、アリスフィーヌ様が冤罪だった事民に周知させねばなりません。そうなりますとご子息の失態すら公表せ去るを得ないかと存じますが・・・」


「ふんっ!ヴァカスが罪を背負えば良い。レンシルとアリスフィーヌ嬢が婚約し結婚すれば我が国は獣人はおろか、全ての国すら侵略できるで有ろう」


「いくらなんでも、それは先代王様の意思に反しまする!」


「くどい!王命に背くならば、そなたから罰してやろうぞ!!」


 近くに居た衛兵が持つ剣を奪い去ると、宰相目掛けて振り下ろすのだが、寸での所で衛兵が宰相を守り、事なきを得る事に成功した。


 ただ、王の黒く染まった思惑は消える事なく、くすぶり続け宰相は、その場に居合わせた全員を避難させるしか出来なかった。



 * * * *


 アース王が黒い思惑に支配されてしまった事は全ての王城に通達された。


「アース王の黒い思惑の内容が把握できぬな」


 獣人族の王城に全ての王族たちが集結し対策を練ろうとして居る。


 それはひとえにアース王の思惑を探る為で有った。


「わたくしにも王様の思惑は理解できませんでしたわ」


 アリスの魔術でアース王に何が起きたかを把握して貰ったのだが、読み取る事が出来なかった。


「ギルヴィア王が黒い思惑を抱いたキッカケは・・・もしや・・・アリスフィーヌ嬢とウィルの婚約では無いだろうか?」


 アイザックの指摘に全員が顔を見合わせ、その仮説ならば対応は簡単だと行動に移る事にしたのだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る