第5話 覚醒

「嘘……」

グレイシアが絶望の表情で立ちすくんだ。あの三人がたった一人の敵にやられた。たった一回の能力を使われただけで。それだけしか頭には入ってこない。いや、それだけで現状を理解するには十分だった。

当然だという顔でリブラが立っていた。

「私の勝ちですね。確かに時間はかかりませんでした。さて約束通り、渡して……」

「まだだ!!」

誰かがリブラの言葉を遮って怒鳴った。

「はい?」

「まだだ。まだ戦いは終わりじゃない!!」

一人の男が、銀色の髪の男がリブラの前に立った。

「ラルガ、まさか……! 無理よ!!」

悲痛な声でグレイシアが叫ぶ

(勝てない……勝てるわけがない……)

「うるせぇ! ブリースさんよぉ……あんたは命令する相手を間違えてる……」

そうして、今まで腕に抱えていたものから初めて手を話し、自分のすぐ後ろに優しく置いた。

「今まで俺が素直に従ったことがあるか?」

その後、グレイシアの方へ向き、こう言った。

「大丈夫だから」

今まで見たことがない程、真剣な表情でリブラの方へ足を運ぶ。

そして、三人がもと立っていた場所で立ち止まった。

「無駄なことをするのですね」

嘲笑うような声でリブラは話した。

「私は強いお方にしか興味はないのです。抵抗するならお好きにどうぞ。ですが、私も暇ではないのでこの無意味な戦いを早く終わらせるためにこちらから」

言うが早いが能力を発動させようと手を首飾りにやった。

「貴方達に会えたことは感謝しましょう。そして貴方のことを忘れないためにも……」

残酷な冷たい目をこちらに向けた。

「貴方の罪を私に教えてください」

壊滅能力アビリティ・最後の審判ラストジャッジメント

先程は三人を襲った眩しい光が今度はラルガを襲った。


私はただただそこに座ってラルガが光の中へ包まれていくのを見ることしかできなかった。

本当は立ち上がらないといけない。助けないといけない。

なのに…なのに…怖い…

あの3人を消し去った者。私の幼馴染を消し去ろうとしている者が怖い。知らずと体が震える。

「二度と大切なものを失いたくないのに……!!!!!」

顔を俯けてしまった。

その瞬間、奇妙なことが起きた。

「バカな!!!」

リブラが叫ぶ。その声にグレイシアは顔を上げる。全てを消し去ったはずの光。

「罪人を裁く光か……」

「さあ、お前の言った通り、この無意味な戦いを始めよう。本当の罪人っていうのは誰のことかもな!」

ラルガが喋った。

「信じられません……」

リブラがそう呟いた。

「あぁ、貴方のことを侮っていたようですね。」

暫しの沈黙が流れる。

「開廷ですね」

そう言葉を放った途端、そこにリブラの姿はなかった。

「直接殴るなんて久々ですね」

その言葉と共にラルガの背後にリブラが現れた。

「危ない……!!」

グレイシアが叫んだ。しかし、それは無用であった。

リブラが殴り掛かろうとした瞬間にはその場にはもうラルガはいない。

「なっ!!」

勢い止まらず誰もいない空間を殴るリブラ。

上級技術スキル・疾風の鎖』

いつの間に遠くにいるラルガが容赦なく技術を放つ。

「私の不意打ちを避けられたのは素晴らしいです。ですが、たかが上級技術。私には効きませんよ?」

そう言い難なく嵐を消し去るリブラ。

「でしょう?」

余裕の表情で立っている。

「さあ、もっとです! もっと、罪人なら罪人らしく……っ!」

ガクッ!

今までリブラが体験したことのない出来事だった。彼が膝から崩れ落ちたのだった。

「っ!」

気が付けば、体中に傷を負っていた。

「くぐっ…防げて、ない…?」

自分の傷を見て信じられないという表情。無理もない。あのリィ達の全力の攻撃を受けても傷一つ負わなかったのだから。そもそもリブラが今までに傷という傷を負ったのも過去に数回。彼の能力から考えて、あり得ない話なのだ。

「本当に久しぶりです。あの方にやられた時以来。やはり、傷を負うと痛いものですね……そして、痛みという感情は、」

リブラが立ち上がった。その目は今までのようなどこか見下しているようなものではなかった。

「怒りに直結する!!」

そう言うと、首飾りを引き千切った。

「神は怠惰!! 本来、我々、人は皆、平等でなければならない。これは誰しもが願う当然なもの。しかし、実際はどうだ? 幸福も力も全てバラバラ。さらに、その力を以って罪を犯す者までもいる。しかし、神は罰しない。見ているだけだ。ならば、この私がリブラの名において平等に罰せなければならない!」

「さて、もう一度問おう。今度はお前を忘れないためではない。お前という罪深き存在を消すためだ。お前の罪は何だ!!!」

引き千切った首飾り宙に投げた。

神武呈上じんむていじょう

「その神から力を授かるというのも皮肉な話」

『神武・クワリアリティ』

「だが、裁定するのはこの私! 星導の囚人・リブラ!!」

リブラの叫びと共に首飾りが内側から光り輝き、その周りに煙が纏われる。まるで、それは雷雲のよう。だが、それとは似ても似つかない。雷雲より恐ろしく、雷雲より神聖な神武なのだから。

「さあ、詫びろ。泣き叫べ。だが、神聖な鉄槌はお前を襲う。死してなお詫び続けろ!」

煙に一つの穴が開いた。その穴からまた一筋の鉄槌が降り注ぐ。

「逃げようだなんて思うな。その罪を受け止めろ!」

激しく言い立てるリブラの言葉をラルガは静かな表情で聞いていた。

「罪、か……逃げようだなんて思ってない。ああ、受け止めてやるよ! お前の裁きってやつを!」

裁きの鉄槌がラルガを襲った。

「だがな、俺には守んなきゃいけねえモノがあんだよ! それを守り切るまでは詫びることも死ぬことも出来ねえ! だから!!」

ラルガが腰に差していた扇子に手を触れた。

『真なる能力アビリティ・捧げ守りし碧き突風』

鉄槌という名の光の中で静かに扇子を抜き、開く。

「お前をぶっ飛ばす!」

そして、その扇子を今度は力強く一振りした。

『真なる能力アビリティ・叫び嘶く白夜の嵐』

風が吹いた。全てを消し飛ばす風が。あまりもの風の強さにグレイシアは顔を手で覆う。ラルガは無表情のまま立っていた。それは地を抉りながら、目の前にあるもの全てを容赦なく巻き込む勢いで高笑いするリブラへと向かっていった。

「罰を受けて尚、まだ罪を犯す気か! ラルガ……この大罪人がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

その後も何かを喋っていたようだが、風に掻き消されて聞こえなかった。


風が止んだ。全てを守り抜いた風が。

ラルガの突風はリブラの裁きを守り、嵐はリブラを消し去った。

そうして、リブラは消えた。

彼によって失われたモノは大きい。しかし、彼は希望を完全に奪うことはできなかった。

まだ、聖戦は始まったばかりだ。

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