第4話 囚人

「特にブリース様、ですかね? 貴殿はそちらの方たちに注意する三秒前から気付いていましたね? 自分でも気配を消していたつもりだったのですが……まだまだですね、私も」

空から降りてきた男。突然、攻撃してきたその男は悪びれもせずに涼しい顔をして降りてきた。首に何か光るものを下げている。

「バロンのやつがもう来やがったか。しかし、よりによって我々が居たとはお主もついていない。だが一人でここまでやって来たその勇気に免じて何も痛みを感じさせないでやろう」

そうブレイズが叫ぶと、手を前に掲げた。

「おっと、私はあくまでもお話し合いをしにきただけでありまして……」

「悪いな!」

超級能力アビリティ永炎牢獄えいえんろうごく

そう唱えた瞬間、黒炎が男の周りを囲って、その姿は見えなくなった。

ブレイズの能力アビリティの『幽閉』と『死炎』の複合技。それに囚われたものは燃え盛る炎のなかで灰と化す。その紅蓮の渦から出られるときは全てが終わった時だ。

「ふー、我々に一人で挑むから、もう少し手応えがあると思ったが大したことではなかったな」

能力を発動し終えたブレイズは一息吐くとそう言った。

惑わされずの近衛兵の中でも一位二位を争う、彼の破壊力。それを今まで耐え抜いたものはいない。

「援軍がいないとは限らない。私とブレイズはこのままここに留まっているからリィとラルガとグレイシアは先に行っていろ。そして……」

冷静に判断を下すブリース。

「おや、援軍などいませんよ?」

聞こえるはずのない声。

「本当はあまり使いたくなかったのですが、これでは仕方がありませんね。」

超絶能力アビリティ・平等なる願い‐脱獄-《プリズンブレイク》』

黒に金が混ざり合う。

「いやぁ、危なかったです。もう少しで殺られそうでしたよ。技術スキルでどうにかなると思ったのですがダメでしたよ。再度となりますが流石は惑わされずの近衛兵です」

黒色から金色となった光から出てきたのは先程の男。始めに姿を見せた時とは全く違うオーラを纏って、首に下げられていた天秤の形をした首飾りが光っていた。

「私の想像の10倍は超える威力。いやはや、驚きました」

(ヤバい)

ラルガは思った。他のみんなもそう思ったに違いない。

(ブレイズの牢獄からでてきた奴なんて、聞いたことがない……!)

(あれはいかなるものも囚われてしまえば殺すんだぞ!)

「どうなってる、ブリース……!」

「何故、生きている……」

困惑する彼らをよそに男は悠々とローブをはたいた。

「これは失礼いたしました。私の名前をまだ名乗っていませんでしたね。私は星導の囚人のうちの一人のリブラと申します」

「星導の囚人……?」

ブリースが呟く。

「ご存知ないですか? 簡単に説明しますと星導の囚人というのはバロンの王、ハーメル様に選ばれた選りすぐりの者達が集まったものです。あまり詳しいことは言えないのですがあなた達、近衛兵団と似たようなものだと認識して頂ければ結構です」

首飾りを弄りながら説明するリブラ。

「何者なんだ、貴様は?」

ブレイズが再度、問う。

「多くを答えられないのが残念です。これしか、答えられないのです。私は星導の囚人の一人のリブラ」

「ではそのうちの一人がわざわざ訪ねてきた要件はなんだ?」

尋ねるブリース。

「お話合いです」

そう言うと、一歩、足をこちらに踏み出した。

「それはあなた達が一番分かっていることでしょう? 彼をこちらに渡してください。それならば、あなた達に危害を加えることなく私は去りましょう。渡さないというのならば力尽くにでも頂くだけなのですが」

この状況を楽しんでいるような口調だ。しかし、その目はしっかりとラルガを見据えており、感情が籠っていなかった。

皆の注目がブリースに集まる。彼はこの中で一番強く賢い。常に正しい判断をして仲間を助けてきた。普段はその視線を嬉しく思っていた。が、今までのものよりそれははるかに重いものだった。

(まともに戦っても勝てる相手ではない。なにしろ、『永炎牢獄』を受けても生きている。炎に対して高い耐性を持っているのか? 若しくは防御能力をあの時使用したのか……とにかく、ブレイズの攻撃は無意味だ。それは私たち全員に当てはまることだ。弱い攻撃を複数に渡って行っても無効化される。確実に奴を倒すとなると私とブレイズ殿とリィの全力の攻撃がその防御を上回らせるしかない。となると……)

結論は出た。

「そちらにこの子を引き渡す気はない。我々はお前と戦おう」

「本当にそれでいいのですか?」

リブラが確認する。

「そちらこそいいのか? いくらブレイズの攻撃を耐えたとはいえ、今度は我々三人の本気と向き合うことになるのだぞ?」

ブリースが告げた。これを聞いたグレイシアが反論する。

「何故ですか?! ブリース様! 我々も参加させてください!! 少しでも多くいた方が……」

「黙りなさい、グレイシア。戦場に行き、全員が死んでは意味が無かろう」

諭すブリース。

「それに若いもの達に苦労は掛けたくないしな」

少し笑ったように話した後、真面目な顔をして言った。

「敵の力は未知数。我々の力をもってしても倒せない可能性は大いにある。その時は……」

そこまで言うとブリースは一歩ラルガとグレイシアに近づいて耳をすませないと聞こえないような声でこう言った。

「逃げろ」

そして、ブリースは振り返って、その男の前へと歩いた。後ろから。ブレイズとリィが付いてくる。その背中を呼び止めることはできなかった。

「さあ、それでは始めましょうか。そちらからいつでもどうぞ」

リブラが3人の正面に立つ。余裕そうな表情であった。

「ああ、時間はかけない」

そういうと、ブリースは無詠唱で『技術スキル伝達者メッセンジャー』を使用し後の二人に指示を出した。

その指示に従ってブレイズとリィが動く。やることはいつもと一緒。これで何度も厳しい場を潜り抜けてきた。そう、いつもならば……

リィが二人の一歩手前に出る。そして、腰に差していた鞘から一本の青い剣を抜いた。

「了解しました。ブリース様」

超絶能力アビリティ・夜月の蒼剣』

「あああ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘!!!!!」

能力を発動させたリィが物凄い速さでリブラに向かって突っ走る。それと同時にブレイズも動く。

超絶能力アビリティ・魂束縛』

超絶能力アビリティ・死黒炎』

その途端、リィの剣が真っ黒な炎で覆いつくされた。

「今度こそ、痛みなく送ってやるよ!」

ブレイズが叫んだ。

超絶能力アビリティ激烈化リインフォース

無表情の顔のままブリースは何も言わず、能力を発動させた。

リィに緑色のオーラが纏われる。

近衛兵団に認められ、その騎士による援護を受けた今の彼女はただただ強い。

彼女が疾走していった後には残像が残り、その残像も彼女の後を追い、残像を残す。その残像も元の残像の後を追い、新たな残像を残す。直にそれらは何百、何千もの軍勢として敵に襲い掛かる。そして、その手に握られた元は青く美しい剣。今や真っ黒な炎で覆われてしまい、輝きといえば目の前の餌に餓えた死炎たちの眼光だけ。この剣が通ったあとに新たなる生命が宿ることはない。

(ブレイズ様とブリース様のお陰で力が溢れてくる……! 幼い時からずっと、ずっと、尊敬してきた近衛兵の力が今この私の中に! 近衛兵様達と肩を並べて戦っている! 無理かもしれない、でも認めてほしい、その思いだけでここまでやってきた。ここで終われない。まだ終わらせたくない!! ここでコイツを倒せば、さらに認められる……? もしかしたら、今、空席のあの枠に抜擢される……? 認めてもらうためなら私は何でもしてきた。コイツを殺すことなんて簡単よ。ましてや、あの二人の力もあるのだから)

「貴方には悪いですけど私の踏み台になってもらいます!!!!!!」

気付けば目の前にいるモノを何度もやってきたように切り裂いた。同時に後ろの残像達も切りかかった。その痛みに苦痛の声を上げながら一人の敵が砕け散っていくのを待った。リィの脳裏にとある男の死に様が浮かぶ。

「そのやり方は本当に正しかったのでしょうかね?」

斬られたその男はニヤリと口を開いた。そして、砕け散ってしまい、地に落ちてしまった元は美しかったが黒ずんだ剣に目を落とした。

「認められたい、それが故に貴方は罪を犯した」

崩れ倒れ、絶望した表情でリィは顔を見上げた。

リブラの首飾りが再び輝き始めた。

「所詮は偽られた強さ」

首飾りから放たれた光がリィ達三人を包み込む。

「興が醒めました」

壊滅能力アビリティ・最後の審判ラストジャッジメント

リブラが能力を唱えた瞬間、三人を包んでいた光が今度は空間全体を包み込む。目を閉じていても眩しい。直後、言葉では表せない轟音が鳴り響いた。そして、訪れる静寂。その跡に最強と謳われた三人の姿はなかった。

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