第3話 記憶

(誰もいない……?)

さっきまで自分がいた真っ白な部屋とは正反対のただただ真っ暗な空間に俺は立っていた。

(さっきから何が起きているなか全然わからない…あの男は誰なんだ?とにかくここから出ないと……)

そう思い俺は目的のないまま歩きつづけた。どのくらい歩いたかわからない。一旦、休もうかと思い始めたそんな時、前のほうに人影が見えた。

(今のは、人か……?あの人に詳しいことを聞いてみよう)

このわけの分からない状況から出たい。今の想いはそれだけだ。

やはり、人だったようだ。

(よし、これでようやく! なにから聞けば……)

そんなことを考えながらその人に追いつく。

「あ、あの…!!」

地面にまで届く長いローブを頭からすっぽりと覆っていて年齢はわからない。後ろから呼びかけてみたが返事はなく、振り返りもしない。

「すみません!! 少し聞きたいことが……っ!!!」

あまりにも驚いて言葉の続きが出なかった。今、自分の目の前で起きたことを信じることができない。肩にかけようとした手がそのまますり抜けてしまった。

「え……」

その人は俺など存在しないかのようにただただ一定のペースで歩き続けていた。また声をかけようか迷っているその人は突然と消えてしまった。

恐怖でそこから動けずにいた。

(ここは……どこなんだ……)

この言葉を今日何回使っただろうか。疲れ果ててしまい、地に膝をついてしまった。

どれくらいたっただろうか。ふと、複数名の人の気配を感じた。慌てて目を覚ますとつい、数分前までは誰もいなかったはずのこの空間に五名程の人間が俺を中心とした円の形となって歩いていた。皆、先ほど見た人がつけていたようなローブを覆っていた。

(この人達は一体?)

「ったく、お前というやつはこんな大事な任務中でさえもふざけるのか?」

五人のうちの一人の大男が大きなほぼ怒鳴り声に近い声を出した。

「まあまあ、ブレイズ様もそう怒らずに……」

今度は別の女性がブレイズと呼ばれた大男をたしなめる。

「これが怒られずにいられるか! こいつのせいでこの任務に失敗し、仲間の犠牲を無駄にして、フロンが滅ぼされるかもしれないのだ!」

よほど怒っているのかその大男からは火花が散っていてた。

その拍子でローブのフードが落ち、素顔が明らかになった。身長は190くらいありそうな大男で白髪で長くて白いひげをもち、顔にはしわが出来ている80代くらいの男だった。しかし、高い身長のせいか、顔にある大きな傷跡のせいか老いぼれているようには見えず、とても力強くみえた。

「うるせーな、ほんと……別にいいだろ、帰ってきたんだから」

背の高い男はこちら側に背を向けながら呟いた。どうやら、この男が何かをやらかしたようだ。

「ちょっと、ラルガ! いくらなんでもブレイズ様にその態度はないでしょ。少なくともあなたは迷惑をかけたのよ。それに勝手にあなた一人で死ぬのはかまわないけどあなたは大事なものを抱えていたのよ!ほんとにどうしてあなたがこの子の護衛をまかされたのかが分からないわ」

先ほどとは別の声の女性がしゃべった。

「こんな人より私のほうが護衛に適していると思うのに」

「あーー。ったく、お前はほんとに口うるさいやろうだな」

ラルガという名の男が反論をしようとこちら側を振り替えった。その腕は何かをとても大切そうに抱えていた。その瞬間、自分の中にある感情が芽生えた。銀色の髪。不機嫌そうな青色の目。そして、腰に差されている扇子。そう、全てが懐かしいと思えたのだ。そして、それと同時に大きな喪失感に襲われた。

(俺はこの人を知っている……?)

「成績優秀でどんなこともこなしてしまうグレイシアさんには俺が護衛の任務についたことに納得がいかないようですが、ここはこの俺、ラルガの方が優秀だと認め、どうかご辛抱してくださいませ~」

「はぁ? あなたが優秀? そんなの死んでも認めないわよ。そもそもあなたが筆記も実技も私に勝ったことなんてあるのかしら?」

「おいおい、まさかお前、自分で作った氷人形アイスゴーレムの暴走を止められずに自滅したことを忘れているのか? いやぁ、あれは見物だったね。他にも……」

「いい加減にしないか。お前たち」

いままで黙っていた人が男とも女ともつかぬ声で怒鳴らずとも威厳のある声で二人を窘めた。その人はフードを深く被っていて顔はよく見えないがあまり身長は高くなく、フードから怪しげに光るその目はとても知的に見えた。

「グレイシア、我々は君のことを高く評価している。でなければ、そもそも、この任務にもつけなかったはずだ。だが、護衛の任務に就くのはラルガだ。それに護衛者を決めるのはブレイズ殿でも私でもない。ゼーナン様だ。きっとゼーナン様にもあのお方なりの考えがあってラルガにしたのだろう。そして、ラルガ。お前はただただ任務をこなせ。その能力アビリティの代行者として生きろ。ここから先はそれがとても重要なこととなる。分かったな……」

「今、すぐそこから離れろ」

唐突にその男が警告を発した。

「え?」

グレイシアが困惑したような声をあげた。

「やはり、お主も気付いたか、ブリースよ。惑わされずの近衛兵・ジュピターの名も伊達じゃないな!」

ブレイズは嬉しそうに叫んだ。その体には真っ赤に燃え盛る炎が纏わりついていた。

「おっと、謙遜は貴方らしくないですぞ、惑わされずの近衛兵・マーズのブレイス殿。いつもの豪快さはどこに行ってしまったのでしょうか」

ブリースの体にも似たような緑色のオーラが纏わられていた。

「ちょ、何言ってる……」

「お二人とも下がって!!」

ラルガの言葉を遮り、始めの女性が二人を後ろに突き飛ばす。

その途端、先ほどまで二人が立っていた大きな爆発が起きた。

「成程……流石は惑わされずの近衛兵のお二人と彼らに認められた剣士様……」

どこからともなく声が聞こえた。

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