Lesson05 唯一の勝機

 俺たち訓練生は、三発の弾の入った拳銃と、太いサバイバルナイフを渡された。それらを武器に、俺とルームメイトの四人は、準構成員ミドルのお兄さんと殺しあうことになる。ちなみに、準構成員ミドルのお兄さんは、四発の弾が入った拳銃と、四本の折りたたみナイフを渡されたのだと、構成員ボディの男に説明された。


「嫌だよ、お兄さんと殺しあうなんて!」

 一人が泣き言を言うと、俺以外の二人が肯いた。


「よりによって、お兄さんとだなんて。これが最終試験かよ!」

「いくら三人がかりでも勝てるわけがないだろ!」

 弱音を吐く三人を、構成員ボディは冷たい目で見下ろした。

「嫌がろうと、三十分後には試験開始だ。少なくとも準構成員ミドルは戦う覚悟を決めている。迷っていれば、すぐに殺されるぞ」


「何とかなりませんか。お願いします。アンチ・キラーになれなくてもいいですから」

 必死ですがりつく訓練生に、構成員ボディは冷ややかに笑う。


 俺は銃を握り、引き金を引いた。

 ズギュン、カンッ。銃弾は構成員ボディにすがっている訓練生の足元に当たった。細かな砂利が舞い上げられて、訓練生は目をむいた。

「何すんだよ!」


「もう避けられないんだ。現実逃避をしたいなら、ここで死ねばいい!」

 俺が引き金に指をかけると、訓練生は半歩後ずさった。


「待てって。無駄撃ちをするなよ」

 やや冷静だった別の訓練生が割って入った。

「覚悟を決めて兄貴と戦うとして、俺たちに勝ち目があると思うか?」

 ある、と俺は言い切って、

「兄さんの銃には四発しか弾が入っていない。一発でも外させれば、俺たち全員を撃ち殺すのは不可能になる。ナイフは残るけど、銃とナイフなら、俺たちのほうが有利だ」

「兄貴が外すとは思えないけどな」

「俺に作戦がある」


 俺は昨夜お兄さんから話を聞いてから、本当に殺し合いになった場合、どうすればお兄さんに勝てるかを考え続けた。技術では勝ち目がない。四人で束になってかかってもかないっこない。でも、朝まで考えて、ようやく一つだけ、勝てる可能性を見出せた。


「誰かがおとりになって注意を引きつけて、三人が影から兄さんを狙うんだ」

「そんなの、見破られるだろ」

「だから、囮も本気で兄さんを取りにいく。決死の特攻だよ。もしも兄さんが囮に気を取られれば、三人の誰かがチャンスになる。かといって、囮を見過ごせば、囮は中央突破で攻め込めんで、兄さんと刺し違えることができるはずだ」

「四人で同時に攻撃するのと、どう違うんだ?」

「四人で攻めれば、それぞれが自分の身を守りながら戦うだろ。それじゃあ、一人ずつ戦うのとそう変わらない。でも、誰か一人だけでも、捨て身で攻撃してきたとしたら……」

「いくら兄貴でも、二つの戦略に同時に対応はできないか」

 納得したのは一人だけで、他の二人の訓練生は首をかしげた。

「どういう意味か分からないよ」

「囮は誰がするんだ。僕は絶対に嫌だ!」

 俺は二人の目を見て、

「ナイフじゃ絶対に勝てない。でも、銃なら可能性はある。俺たちは合計十二発のうち一発を当てればいい。兄さんは一発も外せない。狙撃に警戒しすぎたり、囮に気をとられすぎたりして、狙いを外してもアウト。もちろん、先に俺たちに撃たれてもアウト。これなら俺たちの方がずっと有利だろ?」

「あえて連携をしないことで、お兄さんを翻弄して、誰から狙えばいいのか分からなくするってこと?」

「そんなところだ。四ヶ所に分かれて狙ったり、波状攻撃をすれば、兄さんは一人ずつ始末するはずだ。だからって、四人で突っ込めば、まとめて罠にかけられるに決まってる。だから、罠だろうと飛び込んでいく囮役と、遠くから連携して狙撃する係りとに分かれるんだ」

「囮役がすぐに死んじゃったら?」

「いくら捨て身の攻撃でも、見え透いた罠にはまったり、簡単に撃たれたりするつもりは無い。兄さんが何か仕掛けてこなくちゃいけないくらいの動きはしてみせる。だから、みんなは俺が殺されるやられる前に兄さんを撃ってくれ」

「つまり、お前が囮をするってことか?」

 俺は黙って肯いた。

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