4時
「しまった…」
日中に噂話を聞いてしまったせいだ…注意力散漫…まさか包丁で指を切るとは。
僕は僕自身に呆れていた。
「指切った時って億劫になるんだよなぁ…」
噂話に気を取られ手元に注意してなかった僕が悪いんだけど。「大丈夫か??」と声をかけてくれる他の従業員の方にとても申し訳ない。噂話が気になって仕方が無いのだ。
「山口先輩、十字路の悪魔の噂って聞いた事ありますか?」
山口先輩、僕の2個上らしい男性社員の方だ。僕が入社した当時に教育係的な立ち位置で指導をしてくれて信頼が厚い先輩だ。
「十字路の悪魔?小耳に挟むくらいにしか聞いたことが無いけど、どうした?急に。」
「いや、なんでもないです。」
「あれだろ?命を吸って死に至らしめる的な」
「そうなんですか??」
「いや、分からん。そんな事を聞いたことがあるかなぁくらいの記憶だな。」
「そうですか…」
「そんなこと考えて指切ったのか?笑」
「恥ずかしながら…」
「今日は早めに上がっときな、キリもいいしお客も減ってきてる。まかない作っとくから着替えてきな笑笑」
「そんな!大丈夫ですよ!?」
「いいから!早くタイムカード押してこいっ!笑」
僕は渋々タイムカードを押して着替えることにした。とは言いつつ実は結構助かった、事実稼ぎたい想いはあるけど今日はどうにも集中出来ないし、これ以上迷惑をかける事態になっても困る。
「着替えてきました!」
「はいよっ!唐揚げ定食的なの作ったから、ご飯は自分で盛ってなぁ~」
「ありがとうございます!頂きます!!」
とても美味い。かなり美味い。いつか僕もこのくらい美味しい唐揚げを作って人に食べさせてあげたいとさえ思う。毎月500円差し引かれるけど、コンビニとか自炊とかをすると思ったらここでまかないを頂く方がよっぽど金銭的にも精神的にも助かる。ほんとに美味しい。
「ご馳走様でした!!」
「おう!次の出勤日もよろしくな!」
「ありがとうございました!皆さんお先に失礼します!さようなら!」
さて、腹も膨れたし早いうちに帰れる、バイトは楽しいし好きだけどやっぱり急に帰っていい事になったら少し嬉しくなるものだ。
いつも通りの帰路につこうと考えていた時。ふとある事が頭の隅をよぎる。
「十字路の悪魔…」
亜希から聞いて以降妙に気になる。気にしてしまう。普段こういう話は聞き流せるのにだ、十字路の悪魔は、十字路の悪魔だけはすごく気になって仕方がない。
「早くあがれて時間もある…」
何故ここまで好奇心を煽られるのかは自分でも定かではない。とてつもない引力にひかれるかのように僕は南10条の通りへ足を運んだ。
ゾワッ とした気がした。背筋が凍ると言うよりは、背筋を直接指先で撫でられたような勢いで。僕はまだ噂の十字路を見つけてはいない。南10条の通りに差し掛かっただけの事だ。
「やっぱやめようかな…」
そう思った刹那、僕は嫌なことを思い出した。思い出してしまった。そんな事はあるはずもないけれど、僕の心配は恐らく99パーセント杞憂に終わるだろうけれど。1パーセントでも可能性があるなら行かなきゃいけない。
この気配は何かまずい気がする。不安が不安と恐怖を呼び、恐怖が不思議にも好奇心と勇気を生んだ。
「亜希…」
この手の話を信じない僕ですら何が異様な空気を感じる。確か一人で行くと言っていた…
「大丈夫、もう帰ってるはずだ。」
「でも…」
僕は覚悟を決めて走り出す。
そもそもは住宅街に通じる通路であるため全力疾走とはいかない。あまり街灯や部屋の明かりがついておらず余計に恐怖を煽り立てる。
しかし少し走ると僕は気がついた。奥の方の十字路。
「一辺が空き地だ!まだよく見えないけど違いない」
見つけた、一辺が空き地になってる十字路。
走っていくと自然にあるものが見えてきた、それは本来見えてはいけない。見つけてはいけない。
より大きな恐怖。
より大きな絶望。
残りの1パーセント。
「亜希ぃ!!!!」
そこには独り。一人の女性が倒れていた。
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