第62話 『工場』 その5


 『きみには、我が親しき人間ロボットになってもらおう。しかも、ある程度の自意識と思考力を残そう。それは、非常に魅惑的なやり方だ。ぼくへの愛を感じるロボット。考えるロボット。ただし、必要な範囲でだ。』



 ぼくは、言ってやった。


 『ばあか、超弩級人権蹂躙だ。』



 『ふん。それでも、そうなる。まあ、失敗する可能性はあるがな。新しい試みには、失敗は必要だからな。』



 こいつ、本当に、どうかしている。


 ぼくは、若い時代のこの本人に会ったことがある。


 気鋭の新人科学者で、この、荒れ果てた世界を救うかもしれないとまで、言われていた天才だった。


 とんでもない救い方を思い付いたらしい。


 それを、やらせている首相は、やはり、当然普通ではないだろう。


 滅多に姿を見せない首相だった。


 それ自体が、すでに、普通ではない。


 しかし、言っていることは、必ずしも、でたらめでもなかった。


 戦争と、自然災害の、超複合汚染を、乗り越えようとする意欲が、最初はあったことは確かだった。

 

 だから、ぼくは、マスコミの立場から、応援したのだ。


 どこかから、崩壊し出したのに違いないが、その契機はどこだったのか。


 大山先生が、いなくなった時期だったことは確かだと思う。


 首相が、追放したのか、自分から出ていったのかは、いまだに判断不能だが、こうしてみれば、自ら脱出したのだろうと思う。


 『君達には、助けは来ない。副首相の裏切りは、予想されていたから、ここに、よこしたんだ。わざわざな。ぼくの、ストーリーに沿ってだ。愉しいだろ。ついでに教えよう。大山は、もう、いない。』


 『まさか、あんたが、殺害とかしたのか? なんだ? なんと、実験台にしたんだな。くそ。なに、笑ってる。愉しいもんか。しかし、首相は、ここを核攻撃しようとしたんだぞ。判ってるのか。』


 そいつは、踊るようにしながら答えた。


 『あれは、だから、フェイクだよ、最初から、外す積もりだった。微妙な演出だが、副首相は、やはり、正体を現したろう。成功だ。』


 『ふうん。ぼくは、いまや人間は普通、正常ではいられないと考えていたが、やはり、間違いではないらしい。副首相は、選択肢を持っていただけだ。あんたが、選ばせたんだ。正しい道を。』



 そのとき、けたたましい、アラームが鳴った。


 『きみ。自殺する積もりか? ここを、狙ったのか?』


 こぼれだしそうな目を剥いて、ぼくに迫る。


 もう、遅いさ。


 『そうだよ。なんで、そんな簡単なことが、見えなかったの? ぼくの、お口の中から、あらかじめ、指令を出しといた。制限時間びったりさ。出さなかったと、言ったほうが正しいかな。こんなの、ほっとけないさ。ここは、爆破する。仕方ないさ。ピンポイントだ。絶対に外さないよ。残された老人たちは、シェルターに、避難してるさ。施設長さんが、協力してくれてるからね。杖出さんも、あそこなら生き残るさ。』


 『いや、ぼくは、不滅だ。こんなことで、終わらない。それは、世界の不幸なのだから。』


 やはり、逃げ出したか。


 予想通り、あの、5流作家やましんよりも、さらに、弱虫のできそこないだ。


 どこかに、脱出ルートがあるのだろう。


 しかし、逃げ切れないぞ。


 ぼくの、息が掛かったから、当分は、場所が特定される。


 それにしても、ぼくはともかくも、大山先生は、本当に、やつに殺られたのだろうか。


 それだけだ。 気になるのは。


 あとは、ぼく、個人は、おしまいだ。


 残念だけど、仕事の完遂は、仲間がするだろう。


 好きな主義じゃないが。



     ・・・・・

 


          つづく


 

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