第58話 『工場』 その1


 国内の火葬場自体は、台車式の方式が主体になっている。


 大都市では、早い回転が可能なロストロ式が多かったが、ここは、台車式になっている。


 問題は、燃料である。


 どこも、世界中、燃料は枯渇状態になっているし、一般の備蓄はとっくに尽きている。


 ただし、政府は、いくらかの緊急時備蓄を持ってはいたが、はたして、残りはあるのか。


 怪しいものだ。


 広い土地があれば、やり方もあろうが、日本合衆国は、使える土地がもともと少ないところに、大量の火山灰が降り注いだ。


 雨が降れば、土石流ばかりが起こる。


 なにを間違えたのか、核戦争までやってしまった。


 ここにも、いくらかの、燃料の備蓄はあるに違いないが、もし、政府から睨まれたらどうなる?


 実のところ、なぜ、核戦争が起こったのか、はっきりしたことは、いまだにわかってはいない。


 誰が、なぜ、何のために、始めたのか。


 真相を語る人は、現れていないのだ。


 本来、核兵器は常識の範囲では使えない。


 持っていることだけに意味を見いだしている。


 使用するとなると、指導者が、常識の範囲外にあるか、あるいは、一時的に立つか、さらに病的な状態か、自分を神様と勘違いしているか、狂信的なテロリストか。


 とはいえ、ぼくの手元にも、実際核兵器があり、メンテナンスを欠かさない。そのための、核兵器おたくがいる。


 彼女は、本来、我が国が密かに核を所有したときの、スタッフの一人だ。


 まあ、天才である。


 ちょっと、場を離れていた、副首相が帰ってきた。


 そうして、こう、言い放った。


 『自分は、解任されました。もはや、権限はない。首相は、ぼくの逮捕を命じた。』


 すると、となりのボスが答えた。


 『我々が、あいつを拘束したので、その命令は、ここでは、実行されないですよ。首相どのは、ご乱心に違いない。』


 『ならば、あなたがたに、協力しましょう。』


 解任された副首相が言った。


 ぼくは、通信機で、潜水艦に指令を飛ばし、事実関係の確認を指示した。それから、防空体制の強化を。

 

 要するに、ここは、さらに危なくなった。


 事実関係の確認より先に、第2波攻撃してくるかもしれない。


 ならば、首相は、めちゃくちゃになっていると決まりだが、これ以上核を撃ち込まれては非常に困る。


 だが、さすがに、食糧や、兵士の供給源を破壊するとも思いにくいのだが。


 『工場のメイン設備は地下です。メガトン級の核弾頭だと、直撃されると、さすがに、ちょっとまずいが、シェルターにはなります。』


 と、となりのボスが言った。


 『工場としても、みかぎったのなら、破壊しに来るでしょうな。東北地方に、新しい工場を建設しているとの情報がありましたから、鞍替えするとなれば、証拠隠滅に出るかも。』


 『暴挙ね。』


 我らがボスが吐き捨てるように言った。


 『そりゃあ、まずいなあ。収容者、どうするのです?』


 これは、ぼくである。


 『地下のシェルターに、移しましょう。しかし、工場の地下ほど頑丈ではない。』


 『なら、工場の地下に。』


 『実は、地下トンネルがあります。普段は閉鎖されている。やってみましょう。いささか、狭くなる。あまり、長くは、多数を維持できないです。』


 我らがボスは、となりの課長と一緒に、急遽、施設に帰った。


 つまり、上役は、隣のボスと、解任された副首相だけである。



  ・・・・・・・・・・・・


 


 


 


 


 


  


 

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