第24話 『自決公社の正体』 その3
「さきほどの講堂から、終了後40分間、前方にある『聖なる扉』が開かれたままになります。自決の決意を固めた人は、そこから、こちらがわに入るわけです。」
「ふうん・・・・そりゃあ、最終決断ですか?」
「いいえ、もう、一回、チャンスがあります。次の部屋には、待合室があり、そこから向こう側には、ひとりずつ呼ばれて行きます。そこで、10分間、座って、ひとりで考える時間が与えらえます。その部屋は、複数あるようです。ただ、あまり、長くしても意味ないですから。そこで翻意した方は、狭い地下道を通って、居宅棟に戻ることができます。しかし、多くの方は、そこまで行ったら、あまり戻りません。」
「どんのくらいの、割合なんですか?」
「ああ、引き返す人は、その時にもよりますが、まあ、平均すると、約28%です。3割弱ですから、見方によっては、引き返す人が多いのかもしれませんが、『自決』と言う課題から見れば、少ないんだろうと思うのです。
『だって、強制は一切されていないわけですから。』
でも、人間の心理としては、かなり、拘束された心理状態に陥ると考えられます。あの住職さまは、おおかた、この世で与えられた命は、全うするべし、という趣旨のお話をするのですが、なぜか、希死念慮が、増加すると言うことが分かっております。また、やましんさんのフルート曲とか、その他の人たちも、童謡系のお歌を中心にプログラムを組むのですが、なぜか、もう、故郷に帰りたいと言う気持ちが、素直に、自決に結合するのです。そこは、なんだか、怪しいです。」
」
「ふうん・・・たしかに、なんか、あやしいですな。」
「そこです。ここの入居者には、入居して3日以内くらいに健康診断があり、そこで生体確認のためのチップが埋め込まれます。あなたは、まだのように仕組みましたが。そこに秘密がありと、見ていますが、ここのあたりは、一部の医療班の、トップしか知りません。あなたには、実は、そこも調べてほしい。必ずしも、しろとじゃないでしょう?」
「まあ。放送と、人間心理の共感については、いろいろ、まあ、やりました。小細工もしましたよ。いまも、やってるでしょう。」
「でしょう? で、意思を変えず、そのまま、突き進んだ方は、この、線のあたりから、なんですが、生還不能の領域に入ります。ただ、そこは、見ることはできません。職員自体が、すぱっと切り分かれていて、この先の領域の職員は、ほら、ずっと向こうの頑丈な扉がありますね、あそこから向こう側の施設に暮らしていますが、我々とは、まったく、交流がありません。何をやってるのかも、分かりません。分かっているのは、あちら側に行った人たちは、この世からはいなくなるということです。」
「どう、処理されているのかは、わからない?」
「そうです。さきほどの、映画のように、食料になっていると言う、情報もあります。しかし、実社会では、それらしき食料はない。いろいろ、探してみましたが、見当たらないんです。そこは、映画とは違います。」
「人間の缶詰とかは、見ませんね。」
「まあ、そういう、あからさまなことにはなってない。また、原料に混ざっているという検査結果も、いまのところ、ありません。」
「ふうん・・・・食料じゃないかもしれないし、単に、口減らしだけかもしれないと。」
「そうです。」
「今日来ると言う、そのトップの人とかは、すべて、知っている?」
「ええ、彼女は、知ってるはずです。彼女だけは、というべきかもしれない。向こう側の体制自体が、まったく知らされていないので、はっきりはしない。彼女が、全体のボスなのか?どうも、確証がないのです。それに、あのポストは、交代が早いです。2年か、長くて3年です。」
「やってられない、お仕事ですか。」
「まあ、そうですね。来た時には元気でも、転任の時は、げっそりという感じだから。そのかわり、お給料は、かなり、高いらしいですけど。まあ、キャリア職ですから、仕方がない。ここから出ると、ぐっと、偉くなります。すぐに、政府の中枢に入ります。ただ、ここで、壊れてしまう人も、けっこう、あるらしい。噂ですよ。」
「ふうん・・・・怪しい。ぼくは、そこらあたりの取材を期待されてるわけですか?」
「われわれの組織は、そう思ってます。ここは、解放されるべきです。あるべきではない施設ですよ。」
ぼくは、ちょっと、灰色が入ったらしき蒸気が、どんわりと上がっているのが見える、向こう側の、屋根しか見えてない大きな建物の方を眺めた。
「でも、こんなことしてて、大丈夫なんですか?」
「まあね。あなたは、このあと、あのお姉さまに呼ばれるでしょう。で、もしかしたら、協力を依頼されるかも。きっと、されるでしょう。まあ、どうするかは、あなたの判断ですよ。あすにでも、また、お話しましょう。」
時間は、午前10時を、すこし、回っていた。
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