第25話 『自決公社の自決』 その1

 言われたとおり、11時から、全職員対象の、新しいボスによる挨拶が行われたのである。


 ぼくは、職員のはしくれに、いつの間にか、なっていたわけであり、だから、ちゃんと、集合がかかったのであった。


 現場の管理職と、中央から来る管理職は、峻別されていることは、並び方を見れば、すぐにわかる。


 かれらは、みな、前方に席が割り振られているが、中央から来たエリートは、左側の前方にいる三人であろう。


 座席が、離されている。


 ひとりごとの、占有空間が、心持ち広い。


 のこりが、現場の管理職だとみた。


 彼女もいる。


 序列は、高いらしい。


 中央と、地方の、その、間を取り持つ、現場側から引き上げられた『中間部長』と呼ばれる、二枚目の中年男がいる、と、聞いていたが、それも、見ればすぐに分かる。


 髪の毛の分け方が、特徴的で、前方にすこし、反り返っている。


 公務員には、あまり見ないタイプだ。


 まあ、つまりは、たいへん、分かりやすい職場構成のようだ。


 あきらかに、官庁タイプの職場だ。


 しかし、さきほど、大部分は外側からしか見えなかった、なぞの、施設の問題がある。


 人的にも、峻別されていると言う。


 だから、ここで見るのは、多分、この施設全体の幹部の、一部なのだろう。


 つまり、ぼくは、全体の、部分的なところしか、まだ、見ていないわけだ。


 彼女も、よく知らないと言うくらいだから、全貌を知るのは、中央出身者だけだろうか?



 そこで、その『中間部長』が、司会に立った。 


 職員の数は、ここで見ると、おおかた、100人たらずである。


 『あああ、では、始めます。本日は、新しい、《総施設長》が赴任されましたので、ご挨拶をいただきます。』


 『みなさん、こんにちは。新しく、ここでの仕事を、申しつかりました、中山です。よろしく、お願いします。』  


 たいへん、あっさりとした、テイストの、中身が読めないタイプだ。


 『さて、みなさんは、これまでも、頑張って、仕事に打ち込んでこられたでありましょう。しかし、あたくしの与えられた課題のひとつは、この現場の、改革です。具体的には、効率の、大幅な向上です。』


 女性としては、たいへん、体が大きい。


 見る限り、この現場の、他の誰よりも、大きいのだ。


 しかし、全体的なスタイルは、抜群といって良い。


 『さらに、いえば、回転率の、アップです。

200パーセントアップには、したい。つまり、現在の、倍の回転率にします。』


 言葉にはならない、表現不能の、どよんとした、空気の圧力が部屋を包んだ。


 まあ、緊張感と、言ってしまえばそれまでだが、それが、意味するものは、現場の経験者しか、わからない種類のものだろう。


 見学や、ぼくだけが、単独に聞かされた情報からいえば、つまり、向こう側に送る、老人の数を、倍加させよ、と、いうことになる。


 ぼく自身が、本来、その、対象だと言うことも、含めておかなくてはなるまい。


『どのような、具体的な対応を行うかは、指示も出しますが、各セクションで、よく、話し合ってください。時間は、かけたくない。できることから、すぐ、実行に移します。まず、あたくしが、入所者全員の面談を行います。また、平行して、全職員のヒアリングも、実施いたします。本日は、管理職の方について、実施します。職場全体の風通しをよくするため、幹部会議は、毎週月曜日に、必ず行います。具体的な進捗状況を、チェックし、責任のありかたも、確認します。』


 ここは、天国への入り口か、それとも、はるか昔にはなったが、ナチスの強制収容所に類するものなのか?


 さらに、情報が必要だ。



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