第22話 『自決公社の正体』 その1

 大富豪氏が消えていったところまで、歩いていった。

 

 こういうことは、先送りする理由など、ないだろう。


 庭園は、簡素だが、なかなか美しく仕上げられている。


 しかし、花々に囲まれた天国、とはゆかない。


 砂漠でも育ちそうな、さぼてんの一種や、そてつなどがたくさんある。


 そてつは、そのまま料理すると、中毒を起こす、食材としては危ないものらしい。


 むかし、大戦争後の食糧難の時期に、他に食べるものがなく、中毒死したとかの話を聞いたように思う。


 もっとも、きちんと処理すれば、でんぷんを取り出せるという。


 まあ、まさか、食事に出るとは思わないが、可能性がないと、誰が言えるだろう。


 なんとなく、南国の雰囲気を演出しているようだが、やむなく、かもしれない。


 しかし、四国の山間部なら、本来、冬場は寒いはずだ。


 雪もふるだろう。   


 ただ、世界的に、気候は急速に変動していたのである。


 人間の活動のせいが大きいと、多くの学者が主張したが、もっと大きな、地球の動きだと言ったような、学者もいた。


 大災害が、まとめて起こったのは、たぶん、偶然、あるいは、自然のなせる技なのだろう。


 そこに、さらに、核弾頭や、ウィルス兵器を上乗せしたのは、まだ、犯人は、はっきりとはしていないが、いずれ、人類の罪である。


 そんな、指導者にまかせたのは、誰が悪かったのかも、いまだ、よく、わからないでいる。


 と、役にも立たないことを考えて歩いていたら、壁に来た。


 なんだか、以前にも、同じようなことをしたような、気がした。


 なんだったかな。


 壁の一部が、袋小路のように、奥に折れ込んでいた。


 しかし、どこにも、裏口や、ドアらしきは、見当たらない。


 監視所とか、そういうのも、少なくとも、こちら側には、ないようだ。


 カメラも見当たらないが、そのあたりは、ぼくの専門でもある。


 カメラが見当たらないことは、たいして、おかしくはない。


 壁に、カメラ素子をコーティングすればよい。


 高価だから、一般家庭には向かないが、たぶん、ここなら、おそらく、そうなんだろう。


 探偵よろしく、さらに、あたりを探ってみた。


 地面は、特殊な舗装になってるらしくて、見た感じは、普通の地面だか、実際は人工だろう。


 地中の汚染物が、飛散しないための措置で、それは、撫でてみれば、すぐにわかる。


 この国に、第3次大戦で、核弾頭が、何発着弾したりしたのか、正確な数は、未公開である。


 しかし、放送局でまとめたところでは、メガトン級ミサイルが、5発。


 おそらく、15メガトンクラスである。


 小型の核弾頭は、少なくとも10発は使われた。


 中には、スーツケースくらいのものもあったと、思われるから、もっと、使われたかもしれない。


 でっかいのは、地表爆発させられたので、かなりの放射性物質が、地表に広がった。


 はるかなむかし、広島や長崎で落とされたときは、空中爆発だったが。


 地表爆発だと、火球が地表を覆い、さらに多くの放射性物質が吹き上がり、やがて、地表に降り注ぐのだという。


 まあ、もとの、規模自体が桁違いだが。


 それでも、人間は、絶滅はしなかった。


 各地に、いつのまにか、シェルターが作られていたことも、役にたったらしい。


 わからないことは、まだまだ、一杯ある。


『なにか、見つかりましたか?』


 壁の反対側から、保田さんがやって来たのは、気がつかなかった。


『ここには、出口があるのですね?』


 ぼくは、あたまから、そう尋ねた。


『そうですね。でも、実際に、利用できる人は、少数しかいません。』


『宝田氏とか?』


『そうです。』


『しかし、何かしらの自動車らしき音もなく、空を何かが飛ぶ姿もなかったな 。なんで?』


『見えなかっただけでしょう。』


『ふん。あのですね、この、壁の向こうは、なに?』


『まあ、おかしなことを。あなたは、外から入ってきましたでしょう?』


『あはあ、なるほど。たしかに。それは、そうなんだけど。でも、バスの中からは、何も見えなかった。あなたが、よく知るように、窓が塞がれてたんだから。なんで? ずっと、そこは、考えていたんですがね。』 


『そうですね。でも、まず、あなたに、お見せしたいことがあります。そのあとで、会ってお話ししたい人がいます。』


『ほう? ここは、どこなのか? それで、わかりますか?』


『まあ、お話しした上で。今日から新しい管理者が来ます。11 時から、みなさまに、ご挨拶をするそうですから、それまでに、やりたいのですが。』


『いいですよ。ぼくが、知ってる人かしら?』



 ぼくは、今度は、彼女にくっ付いていったのである。



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