第20話 『自決公社』その8

『あなた、宝田さんですね。』


 ぼくは、わざと、ちいさく言ったのである。


『ほう、みぬきましたな?』


 明らかに、食いすぎと思われる、肉食獣のような男がにやっとした。


 だいたい、今のこの国で、しかも、この場所で、食い過ぎなんてありえない。


 しかし、あきらかに、この人は、食い過ぎである。


 これは、昔から言われてきたが、先の世界大戦中や、混乱の戦後であっても、大金さえ出せば、良い食料はどこからか出てきたと言われる。


 いや、金さえあれば、なんでもあった、と、聞いたことがある。


 この、世界中が飢えている今でさえ、どうやら、そうしたルートがあるらしい。


 ならば、人類の絶滅というような事態が、本当にこの先、遠くなく、起こるのだろうか?


 それは、しかし、あり得ることだとは思う。


 そうしたルートは、ごくごく細い、希少なルートだろう。


 すぐに、壊れるにちがいない。


 ぼくは、70歳で定年したと、最初にお話したと思う。


 ぼくは、恵まれた環境にはあったのだ。


 政府の情報管理に協力も、していたことは事実だし、衣食住について、配慮してもらえてもいた。


 ぼくが、政府の悪口をある程度言えたことには、当然のかけひきが色々あった。


 それは、政府にとって、必ずしも悪くはなかったのだ。


 なかなか、よい事があるはずがない、この世の中である。


 ある程度、失敗して、国民から叩かれることには、むしろ、合理的な真実味が生じるのだ。


 まあ、あえて言えば、あのあまり切れ味の良くない首相が、その地位に居られることに関して、ぼくに感謝してほしいような出来事は、いくらでもある。


 もっとも、それは、付けたしであり、本筋は、また別にある。


 もっとも、ぼくが知っている事実が、どこまで真実かは、あやしいものである。


 そうして、この、大富豪が、なぜ、いつまでも大富豪なのか、また、なぜ、ここにいまいるのかだって、おかしな話なのだ。


 「あなたのような方が、なぜ、ここにいるんですか? あなたは、ここに入る範疇には当たらない人のはずだ。払ってる税額だけでもそうでしょうに。第一、探検のために、わざわざ、こんな不便な場所に宿を取る理由もないでしょう。たしかに、発掘現場とかに近いのかもしれないけど、自分用の豪勢な、あるいは、都合のよい宿泊所を、いくらでも用意できるでしょう? でも、なぜか、ここにいる。何かの理由があるわけですよね。」


 「ほう・・・なるほど。たしか、神田アナ君だよね。君とは、二~三回会った程度かと思うが、まあ、マスコミの人が、いささか失礼なのは仕方がないが、もうちょっと、色の良い挨拶があろうものを。もったいない。」


 「そりゃあ、失礼しました。あまりに、びっくりしたので。」


 彼は、少し周囲を見回してから、言った。


 「ちょっと、庭に出ようかな。」


 火山灰や、放射性廃棄物や、死の灰だらけのこの世界にあって、大気の状態が良いというのは、あまりないことだろう。


 やっかいな、ウイルスも、まだ、蔓延しているままだ。


 最終的な薬は、出来ていない。


 作り出す元気も、人類には、もう、無くなってきている。


 しかし、ここの大気は、なんだか麗しい。


 終末期の老人ホームには、最適だと言う気は確かにする。


 とはいえ、ここも、高い塀があり、周囲の様子がさっぱりわからない。


 これだと、刑務所と、変わることはないだろう。


 なぜ、そこまでして、場所を隠したがるのだろうか?


 まずは、それが最初の突破口だな。


 宝田さんから、そこを、とりあえず、聞き出そう。


 「まあ、君は、いろいろ、言うがな。そもそも、この土地は、私の所有地、正確に言えば、所有する企業の所有地だ。国に貸しているのだ。いても、おかしくはなかろう。」


 「はあ、なりほど。そりゃあ、そうですな。それだけでも、ある程度、場所は、絞られますが。あと、一押し。」


 「うむ。さらに言えば、ここは、君が言う通り、私の生涯をかけた探検に、重要な場所だ。」


 「そこですよ。いったい、ここは、本当は、どこなんですか?なんだか、必死に隠したいらしい。かなり、おかしいです。四国である。と、それだけは、もとから、前提条件になってますがね。あと、はっきりしない。」


 「なんと、君らは、ここがどこかも、ほんとに、 知らされておらんのか?」


 「そうですよ。あら、知らないんですか?」


 「いやあ、考えたこともない。それは、ひどいなあ。しかし、政府が言いたくないものを、私が言うのはまずかろう。」


 「そりゃあ、まあ、わかりますがね。」


 ぼくは、ぼんやりと、言った。


 「これは、推測のお話しです。あなたは、大山先生を探している。理由は、よく、わからないですがね、あなたが、生涯かけてるとおっしゃる、ユダヤの秘宝と、からんでる。まあ、あなたは、剣山周辺を探し回ったから、ここも、そのあたりなんだとは、思いますが。で、大山先生は、カメリカが隠した、核兵器のありかを、たぶん、見つけたのではないか、と、政府筋は見た。事情なんか、しりませんよ。しかし、先生は、政府には、なにも、教えようとしなかった。平和主義者の大山先生は、そんなものは、廃棄したい。現政府に、教えるつもりなんかはないでしょう。そこで、政府は、先生を、本来適用されない、四国送りにした、ただし、通常ではない、特別な場所にね。そこで、それとは、別のルートから、あなたは、ユダヤの秘宝と、核兵器が、同じ場所に隠されたという、情報を、どこからか、得た。たぶん、カメリカの、地下工作員あたりでしょう。彼らも、イエローストーンの大爆発や、新型ウィルスなんかで、大混乱になり、滅亡寸前になった。さらに、壊滅した日本の駐留軍が、あわてて、核兵器を隠した場所が、さっぱり、わからない。彼らも、当然、使える核兵器は、回収したいでしょう。あなたに、資金提供すると、言ったかもしれないです。しかし、大山先生は、二ヶ月前から、行方知れずです。あなたは、老人収容所に目をつけた。政府といっても、一枚岩ではない。首相と、その、取り巻きたちが、一応、実権を握ってはいる。それ以外の人たちは、だいたい、防衛大臣の派閥だが、彼らは、まあ、控えめに見ても、やや、カルト的ですしね、大いにナショナリズム的だ。核兵器を得て、日本を強力にしたい。だから、その、隠し場所を、ずっと、探してきていた。と。ね。あなたは、うまく、立ち回り、自分の仕事を、ここで、

成し遂げたい。ねぇ。やましんの、100円小説みたいでしょ。」


「きみは、何を知っているのかな?」


「大山先生の、居場所。だったら、どうしますか?」


「ふうん。」


 宝田さんは、黙った。


 まあ、当然だろうな。


 さまざま、秤に乗せているのだろう。


 おたがい、まだまだ、話してないことなら、たくさんあるはずだ。


「あなたは、保田さんのことは、知ってるのかい?」


 ふいに、そう聞かれた。


「心理学者で、ここの、職員の保田さんのことなら。知ってますよ。僕の、担当だし。」


「ほう・・・・・・」


 宝田さんは、また考えていた。


「だから、わざわざ、ぼくの方に歩いてきた訳ですね。敵になるか、味方になるか?生かしておくべきやつなのか?」


 宝田氏は、目を大きく見開いた。




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