第19話 『自決公社』その7
『できるだけ、部屋から出ないで欲しい。』
それが、彼女たちの希望だ。
面倒は起こしたくないんだろう。
『あなたは、有名人です。そこんとこ、よろしく。』
しかし、マスコミ出身で、若い時代には、探偵をやってた自分に、寝てろなんて、要求する方が無理な話だ。
しかも、希望だから、命令ではない。
第一、鍵は渡されている。
つまり、自己責任で、動いて良いと言うことだ。
歳を取ったのは残念だが、こればかりは、どうにもならない。
まずは、お友だちが必要だ。
だから、共用スペースに、堂々と座り込む。
これは、若い頃からの方法で、ある、トップ・セールスマンから習ったやりかただ。
もっとも、ここで、役だつかどうかは、さすがに怪しい。
朝、6時。
老人には、早い時間ではない。
予想どおり、すでに、4~5人、ソファーに、バラバラに座り込んでいる。
文字通り、バラバラになっている。
なんと、新聞がある。
手に取ってみれば、『エブリデイ・モーニング新聞{四国版}』ときた。
装丁自体は、プロの仕事だ。
しかし、トップニュースは、首相のコメント記事だ。
国政には、直接の関係はない。
『四国の仲間のみなさん、お元気?
ぼくは、げんきです。』
と、いう内容である。
まあ、あいつを、ある意味、直接知ってるぼくからしたら、じつに、妥当な内容だ。
それ以上のコメントなど、期待できない。
あとは、四国の最近の土壌や環境情報がある。
たいせつには、ちがいがない。
それから、たぬきか、いのししが、『中央総合センター』に多数現れ、困っているとか。
なんだ、そりゃ。
まてよ、『中央総合センター』って、なんだろう?
そのままの名称は、聞いたことがない。
ぼくは、四国の公的施設は、すべて調べているつもりだ。
『中央』にあたる言葉がある施設は、いくらかある。
『四国中央医療センター』
『四国中央文化研究センター』
『四国総合中央管理センター』
総合も、中央も入ってるのは、こいつだ。
しかし、これは、各省庁の出先機関のはずだが。
そこが、たぬきか、いのししか、に、攻撃されてるとは、なんとも、のどかなニュースだが。
高松も、徳島も、松山も、高知も、都市部はミサイルか、火山の火砕流か、津波で破壊され、いまは廃墟しかないはずだ。
現在、中央施設が集まるのは、かつての美馬地区だが、実は、これは、ダミーだという、噂が無いわけでもなかった。
実際に、困ってるのは、いま、自分がどこにいるのかさえ、分からないことである。
GPSでも、持ち込めたら良いのだが、あえなく、没収と、なった。
結局のところ、核弾頭がどこに隠されたのか?
が、問題の焦点であるのだろう。
第一に、この話は、一般には、知られてはならない、国家的秘密事項である。
ぼくとしても、責任上、公表できない。
ちなみに、剣山には、『ユダヤの神器』が隠されている。
という、オカルト的伝説が古くからあったが、今も探してる人がいるのか?
いるのである。
たいへんな、強者である。
政府を力ずくで、なぎ倒し、捜索を継続している。
まあ、大富豪さん、である。
なにしろ、政府の許可なくしては、四国には入れないのだが、並大抵の事情では、許可されない。
最大の問題は、老人対応なんだと、ぼくは、見ている。
絶対に、しられちゃ、まずいことがあるわけだ。
つぎが、いや、それを上回るのが、核弾頭問題だろう。
しかし、まあ、これが、第一面の記事なんだから、あとは、押して知るべしと思ったが、それは、甘すぎたらしい。
二面、三面記事は、意外と充実している。
というより、本州地区と変わらない内容だ。
大体、本州地区の、ニュースなんて、いい加減なものだ。
政府に都合の悪い情報は、まず、出ない。
だから、いささか、ぼくの偏見を、修正する必要もありそうだ。
ここは、完全に閉鎖された社会ではないのかもしれない。
『本州並み』、と、言える部分もありそうだ。
と、そこで、一人のかなりな高齢と見える男性が近寄ってきたのである。
お髭のなかに、顔がある。
いや、顔は、ほぼ、ない。
ぼくは、かなり、長く見つめたあと、ようやく、びっくりして、回転レシーブしそうになった。
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