第13話 『老人収容所』 その10
バスから降りたぼくは、まず、おったまげたのである。
バスの乗降口には、まるで、大陸横断飛行機の搭乗ゲートのような、渡り廊下が横付けされていたのだ。
『な………なんだ?これは?』
待ち構えていた車いすに座らせられた。
これは、まあ、正しい対応なのだろう。
しかし、同時に、何かを口に噛まされて話すことができない。
これが、正しい対応だとは思えない。
さらに、肩に何かの注射をされたのである。
そこで、いったん記憶は中断した。
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こざっぱりとした、いや、結構広い部屋の中だ。
「あり。ここは、病院かな? それにしちゃあ、医療設備はない。」
酸素吸入用の栓もないし、点滴用の吊り具もない。
しかし、呼び出し用のインターフォンはある。
おまけに、水道の設備があり、きちんとお水が出るではないかあ。
バスルームもある。
テレビがあり、大きなテーブル、しゃれたデザインの椅子がふたつ。
電気も来ているようだ。
小型冷蔵庫もある。
『崩壊期』以前の、ビジネスホテルのスーパー・シングル・ルームくらいだ。
当然、前の、ぼくの部屋よりかなり立派である。
清潔感が漂うのが、なにより素晴らしい。
いまどき、このような奇麗な部屋に住んでいられる人は、ごく限られている。
金持ちだったから可能だ、というものでもない。
そもそも、そういう快適な居住場所というものが、この国には、あまりなくなっている。
たとえ、形だけは残っていたとしても、基本的な都市機能は、どこも壊滅状態だ。
国家が威信をかけて維持してるのは、首都圏域の、そのまた一部だけである。
港は、大方壊れてしまったが、新潟港だけは、なんとか動いている。
国際便が飛べる大きな飛行場は、成田も羽田も関西も中部も、みな使用不能になった。
どこも管制機能が働かないから、危なくて使えないし、滑走路も穴ぼこだらけである。
元米軍の基地を、なんとか物資輸送用に使っているが、そこから国内に輸送する陸上ルートが寸断されていて、空中バスやトラックに依存してはいるものの、エネルギーがまったく足りない。
鉄道は、地方のごく一部の短いローカル線を除いて、ほぼ壊滅状態のままだ。
ここを、早く復興させたいのだが、大災害が地球規模だったため、どこも余裕がない。
技術的な問題も大きいのだと聞く。
すでに滅亡状態の国もあった。
この機に、地球を支配しようという、おろかな政治家が、まだ現れていないことが、唯一の救いである。
いま、世界征服しても、征服した国民の面倒をみる力は、誰にもない。
まあ、そんな余力があるところはなかったのだ。
第一、食べ物がない。
世界中、ない。
これは、絶望的な事実である。
なぜ、カルデラ爆発などが、いっきに、あちこちで、いくつも起こったのかは、はっきり判ってはいないが、小惑星の衝突と関係があるかもしれないともいう。
作物が作れない、育たない、採集できない、運べない、保存できない。
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というわけで、ここは、いったい何なのか?
その正体は、彼女がやって来たことから、直ぐに判ったのだ。
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