第13話 『老人収容所』 その10

 バスから降りたぼくは、まず、おったまげたのである。


 バスの乗降口には、まるで、大陸横断飛行機の搭乗ゲートのような、渡り廊下が横付けされていたのだ。


『な………なんだ?これは?』


 待ち構えていた車いすに座らせられた。


 これは、まあ、正しい対応なのだろう。


 しかし、同時に、何かを口に噛まされて話すことができない。


 これが、正しい対応だとは思えない。


 さらに、肩に何かの注射をされたのである。


 そこで、いったん記憶は中断した。



  **********   **********



 こざっぱりとした、いや、結構広い部屋の中だ。


「あり。ここは、病院かな? それにしちゃあ、医療設備はない。」


 酸素吸入用の栓もないし、点滴用の吊り具もない。


 しかし、呼び出し用のインターフォンはある。


 おまけに、水道の設備があり、きちんとお水が出るではないかあ。


 バスルームもある。


 テレビがあり、大きなテーブル、しゃれたデザインの椅子がふたつ。


 電気も来ているようだ。


 小型冷蔵庫もある。


 『崩壊期』以前の、ビジネスホテルのスーパー・シングル・ルームくらいだ。


 当然、前の、ぼくの部屋よりかなり立派である。


 清潔感が漂うのが、なにより素晴らしい。


 いまどき、このような奇麗な部屋に住んでいられる人は、ごく限られている。


 金持ちだったから可能だ、というものでもない。


 そもそも、そういう快適な居住場所というものが、この国には、あまりなくなっている。


 たとえ、形だけは残っていたとしても、基本的な都市機能は、どこも壊滅状態だ。


 国家が威信をかけて維持してるのは、首都圏域の、そのまた一部だけである。


 港は、大方壊れてしまったが、新潟港だけは、なんとか動いている。


 国際便が飛べる大きな飛行場は、成田も羽田も関西も中部も、みな使用不能になった。


 どこも管制機能が働かないから、危なくて使えないし、滑走路も穴ぼこだらけである。


 元米軍の基地を、なんとか物資輸送用に使っているが、そこから国内に輸送する陸上ルートが寸断されていて、空中バスやトラックに依存してはいるものの、エネルギーがまったく足りない。


 鉄道は、地方のごく一部の短いローカル線を除いて、ほぼ壊滅状態のままだ。


 ここを、早く復興させたいのだが、大災害が地球規模だったため、どこも余裕がない。


 技術的な問題も大きいのだと聞く。


 すでに滅亡状態の国もあった。


 この機に、地球を支配しようという、おろかな政治家が、まだ現れていないことが、唯一の救いである。


 いま、世界征服しても、征服した国民の面倒をみる力は、誰にもない。


 まあ、そんな余力があるところはなかったのだ。


 第一、食べ物がない。


 世界中、ない。


 これは、絶望的な事実である。


 なぜ、カルデラ爆発などが、いっきに、あちこちで、いくつも起こったのかは、はっきり判ってはいないが、小惑星の衝突と関係があるかもしれないともいう。


 作物が作れない、育たない、採集できない、運べない、保存できない。



   *****   *****   *****



 というわけで、ここは、いったい何なのか?



 その正体は、彼女がやって来たことから、直ぐに判ったのだ。



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