第7話 リサさん、人間界へ染まる
「さて……」
リサさんとの生活が始まってちょうど一週間が経った。つまりそれはリサさんからの最初の家賃、言い換えると俺のほしいものを魔法で作り出してくれる日が訪れたということだった。
バイトからの帰宅道。俺は頭を悩ませていた。
物欲が全く無いというわけでは決して無いが、改めて何でもほしい物をあげると言われてもなかなか思いつかない。
初めはカメラを創ってもらったものの、それを日本円の価値に変換すると簡単に十万は超えてしまう。六畳一間の部屋の家賃が十万の価値があるとは到底思えない。リサさんとの共同生活が始まって増えた食費や光熱費などの追加出費を見ても一週間に十万という値段は余りあるものだ。正しい相場を割り出すなら五千円程度でいいところだろう。
ただそうは言っても一週間に一度のボーナス。もしあの魔法の力がリサさんの体に大きな負担を掛けないのであれば少しくらい贅沢をしたいという欲もある。
「逆にリサさんは何か欲しいものはないんですか?」
「え、私?」
帰宅してすぐに俺はリサさんに尋ねた。
「はい。リサさんだって何か欲しいものとかあるのかもって思って」
「うーん、この力はリョウくんの為に使うつもりだったから私が欲しい物はあんまり考えてないんだけれど……」
リサさんは頭をひねらせる。
「正直、人間界の物の価値もよくわかっていないし、家事だってリョウくんに任せきりなんだから素直に高価なものをねだってもいいと思っているのよ。家とか車とか飛行機とか」
「いやそんなもの貰ってもどうしようもないんですけど……」
ちなみに家事はすべて俺がやっているのは単純にリサさんが一切の生活力を持っていなかったからである。
同居が始まって一週間、リサさんには炊事洗濯掃除の一通りやってもらったがそのどれもが悲惨な腕前だったため彼女には最低限のお手伝いだけをお願いしている。
「強いて言うなら暇つぶしになるもの、かな……?」
「暇つぶし?」
「そう。リョウくんが学校やバイトに行っている間、私ずっと暇なんだもの。暇を潰せるものならなんでもいいからあると便利だなあって」
確かに。
家事のできないリサさんは家にいても基本的にぐーたらしているだけだ。それもある意味問題なんだけど、かといってこんなに目立つ人を気軽に外に出すわけにもいかないので俺はリサさんが一人で近所以外に外出することは控えてもらっている。
これまではテレビを見たりうちのパソコンでネットサーフィンでもしながら時間を潰していたみたいだけど、その繰り返しにもだんだん飽きてしまっているようだ。
「ちなみに希望があるのであれば何が欲しいんですか?」
「実は最近ゲーム実況を見るのにハマっててね」
「ゲーム実況」
リサさんはおもむろにPCを立ち上げて有名な動画サイトのあるページを開いた。
どうやら最近巷で話題のバトルロワイヤル形式のシューティングゲームの実況動画みたいだ。俺もサークルの友人が遊んでいたことがあったのでゲームタイトルくらいは知っていた。逆にこの実況動画というジャンルに疎い俺はプレイしている人間は初めて聞く名前だった。
「魔界にもボードゲームくらいはあったけどこういうハイテクなものは無かったのよ。最近暇つぶしにずっとMetube見てたらゲーム実況にハマっちゃって」
Metubeっていうのは先程からPC画面に表示されている有名動画サイトのことだ。
知らないうちにリサさんもかなり
「じゃあこれにしましょうか。今週の家賃」
「え、でもリョウくんの欲しいものじゃないけど……」
「いいじゃないですか。せっかく二人で暮らしているんですから、二人の生活が充実するようなものにしましょうよ」
それなら家賃の相場をそこまで気にする必要もない。それに二人で満足できるもののほうがいいに決まっている。
「やっぱりリョウくんは優しい人ね」
「あ、でもゲームのしすぎはだめですよ? ご飯と睡眠時間は削らないこと。それと課金は俺に許可を取ってください。あとオンラインゲームで人様に迷惑をかけるようなこともしちゃだめですよ」
「うんっ!わかりました!」
満面の笑みで返事をするリサさん。こういう時の彼女はやけに子供っぽいあどけなさがあるなぁ。
ていうか結構このゲームしたかったんだな……。
俺も思わず喜ぶリサさんを見て微笑みを浮かべていた。
それから数日が経った。
「……リサさん」
「あの、リョウくん、ちょっと待っててね……!あと生き残りは五人なの……!もう少しでドン勝が取れるから!」
テレビの前でコントローラーを握りしめ画面に熱中するリサさん。
テーブルにはすでに夕飯が運ばれており、静かに湯気を立てている。
「リサさん、言いましたよね。ご飯の時はすぐにゲームをやめるって」
「でも今だけ!今だけは許して!あとちょっとだから……!!」
「リサさん!昨日も同じこと言ってましたよね!!」
「ち、違うの……!」
湯気を立てているのは食事だけじゃない。
俺の心もふつふつと煮えていた。
「リサさん。もし今すぐゲームをやめなかったら夕飯抜きですよ」
「そ、そそれはずるいじゃない!」
「いいえ、ずるくないです。それともいますぐゲーム機のコンセントを抜きましょうか……?」
「お、鬼!悪魔!吸血鬼!!」
「吸血鬼はあなたでしょ!もういいです!リサさんのぶんは俺が食べとくんで!!」
「ちょ、ちょっとぉー!!」
ゲームの導入によりうちの騒がしさはさらに増したのだった。
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