第6話 リサさんのプロフィール
リサさんの本名は、リーザ・ルード=ラグセリアという。人間界ではヨーロッパ系の名前に似ているが、ヴァンパイア世界では結構ありきたりな名前なのだそう。
リサさんとの暮らしは始まって数日経ったある日の昼下がり。俺はとある理由からリサさんの名前について尋ねていた。
「名前の意味みたいなのはあるんですか?」
「ファーストネームのリーザっていうのは魔界に咲いてる花の名前よ。ルードっていうのは遠い先祖様の名前かた取られたらしいわ。ラグセリアが家名、日本でいう名字みたいなものなんだけれど、ルードっていうのはそのラグセリア家の始祖にあたる御方らしいわ。私もよく知らないんだけれどね」
リサさんの回答を聞く限り、名前の由来は思っていたよりもありきたりなものだった。ミドルネームに始祖の名前が入っているあたり、かなりヴァンパイアの中でも階級の高い人なのかもしれない。
「ちなみにリサさんっていくつ――?」
「永遠の17歳!」
「あ、そういうのはいいんで」
むくっと頬をふくらませるリサさん。膨らんだ肌がほんのりと赤く染まっている。わざわざ恥ずかしいボケをかますのなら言わなきゃいいのに……。
「今年で26歳です。リョウくんの6つ上ね」
その回答は俺にとっては意外だった。
「えっそうなんですね。年上とは言っていたけれど、魔界の住人だしてっきり300歳とか1000歳とか言われても驚かないつもりだったんですけど」
「ヴァンパイアといっても寿命は人間と同じくらいよ。とはいえ、人間とは体の仕組みから死生観までかなり異なっているから一概に説明はできないんだけど」
「はあ……」
ともかく私がリョウくんのお姉さんであることには変わりないのよ!とリサさんは大きな胸を張った。
なんだか変に話を打ち切られてしまったような気がする。
説明が長くなるからなのか、リサさんが語りたがらないだけなのかはわからないが、それ以上年齢の話を続けることはなかった。
身長はだいたい160センチくらいか。並の女性より少し高いくらいだろう。一度病院とかでちゃんと健康診断を受けさせたほうがいいのかもしれないが彼女がヴァンパイアな以上、人間との体の違いを病院からつっこまれて面倒なことになるのは避けたい。
俺は目の前の紙に身長160センチと書き込んだ。
「ていうかさっきから何を書いているの?」
リサさんはテーブルを挟んで向かい側に座っていたが、身を乗り出して俺の目の前の紙を覗き込む。それと同時に彼女の着ていた部屋着の裾が揺れる。
覗き込むリサさんの胸元から下着がチラリと見えていた。
相変わらず露出度の高い服を好むリサさんは今日も胸元のざっくり開いたTシャツを着て、デニム生地のホットパンツを履いていた。リサさん曰くシンプルでだらけられる部屋着スタイルらしいけれど、俺の心は素直にだらけられないので困ったものである。
「……ご、ごほんっ! これはリサさんのプロフィールです。もし人間界で生きていくならある程度個人情報を整理しておいたほうが便利になるだろうと思って」
気を取り直して俺は彼女に持っていた紙の説明をした。
それに公的機関にリサさんの情報を求められるようなことが起きた時に矛盾点が生まれてしまうのも避けたい。
知れる情報はなるべく知って、でっちあげたほうがいいところは早めにでっちあげて嘘を固めておくのだ。そうでもしないとヴァンパイアを人間界に溶け込ませられない。
「なるほどなるほど。私のことを知りたいと思うのはとってもいいことだよ」
リサさんは本当に俺の意図を理解してくれているのかどうかわからないが、とりあえず納得してくれたようだ。
「ちなみに身長とか体重って人間界表記でどのくらいかわかりますか?」
「わかるよ!えっと、身長は161センチで体重は51キロだったかな?」
「正確な情報助かります。どこかで測ったりしたんですか?」
リサさんは人間界の身体測定を受けたことはないはずだ。だから彼女が自分の身長や体重を把握しているのは意外なことだった。
「ううん、魔界での単位を人間界の日本の単位にすり合わせたらこんくらいかなって計算してみた」
なるほど。魔界にも身体測定があって助かった。
ていうか瞬時にすり合わせの計算ができるなんて、リサさんは結構頭が切れるのだろうか。一応あとでプロフィールの備考欄にこのことを書いておくか。
「あ、それと、」
リサさんはおもむろに立ち上がり自身の胸に手を当てた。いや当てるというよりは彼女の大きな二つの果実を持ち上げるように手を添えていた。
そしてこう続ける。
「バストは96センチのIカップで――」
「へっ……!?」
胸に添えられた手はリサさんの言葉とともに、胸から腰、腰からお尻へと艶やかな動きで運ばれる。
「ウエストは59、ヒップは89センチ、だよ♪」
ただでさえTシャツ一枚という薄着な状態で、ボディラインをなぞるような手付きをされると嫌でもリサさんの体のラインを意識してしまう。
「か、からかわないでくださいっ」
緊急回避のために俺は自らの目を手のひらで隠して、リサさんを叱る。
し、しかしグラビアアイドルも驚きのグラマラスボディ……。リサさんとの生活が始まって数日経ち、彼女のスタイルの良さは十分に思い知らされていたけれど、こうして数字に表されるとやはりその凄さを改めて実感する。
「――直で確認してみる……?」
ボソリとつぶやくリサさん。
「しませんっ!!」
いや気にならないわけじゃないけど!そういうのはもっと親密になってからじゃないと!
「ガード硬いなあリョウくんは」
「一般的倫理観に基づいて判断しているだけです」
そもそも同棲という時点でいろいろと過程をすっ飛ばしているのだから、最後の一線は何があっても超えないようにしなければならない。
そもそもヴァンパイアと、その、いわゆる、そういうことをして、人間の体が無事である保証もないし。生気とか吸われそうだし。
「案外普通の女の子と変わらないと思うわよ?」
俺の思考を読み取ったのかリサさんはそう言った。
「いやいやいや、まだ早いですって」
「『まだ』……か。じゃあリョウくんはそのうちそういうことをするかもなっていう気持ちはあるのねー!お姉さん、楽しみになってきちゃった!」
「ち、違います!!」
思わず顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「お姉さんそれまでちゃんと待ってるから……」
「だからからかわないでくださいって!!」
結局、リサさんのプロフィールが書き終わるまで終始俺はリサさんの冗談につきあわされ続けたのだった。
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