幕間

02 プロローグ




 蝉の声はうるさかったが、どこか〝静けさ〟の漂う公園だった。

 公園で遊ぶ同年代の子供たちの姿が、なぜか遠く感じられた。


 腕を引く母の手首に、陽光を反射する腕時計。

 きらきらと輝くそれが、とても記憶に残っている。


 空を見上げると視界が白く塗り潰されて、その眩しさに目を細めた。



 ――夏。それが全ての始まりだった。



 買い物からの帰り道、立ち寄った公園で一休み。

 アイスを片手に、木陰のベンチで遊具の方を眺めていた。


 楽しそうに遊ぶ同年代の子供たち。

 まるで違う世界の景色を見ているようだった。


 あの輪の中の混ざりたいと思う傍ら、それはきっと叶わないのだと頭の片隅では分かっている。

 一緒に遊ぼう、なんて、誰も声をかけてはくれないだろう。

 そしてまた、そう言ってそこに踏み出す勇気もない。


 だけど――


「……?」


 ふと目に入ったのは、特徴的な服装をした女の子。

 いわゆるメイド服というのだろうか、白と黒を基調とした、控えめな印象を受ける衣装だった。


 遠く、公園の反対側で、その女の子はひっそりと、まるでふと足を止めたかのような格好で佇んでいる。

 おつかいの帰りなのか、両手で重そうな買い物袋を持っていた。


 その女の子もまた、遊具の方に目を向けていたのだろうか――ふと、目が合った。

 そんな気がしたのも一瞬、女の子は慌てたように顔を背け、脱兎のごとく駆け出してしまった。


 突然――


 それは女の子が逃げ出した時、その手にあった袋から何かが落ちたのを見たためか。

 それとも――彼女が〝自分と同じ〟だと感じたせいか。


 ――気付いた時、身体が動いていた。


「どこ行くの、ましろちゃん……!?」


 制止する母の声も耳に入らず、走り出していた。

 逃げ出したかったのか、踏み出したかったのか。


 いずれにしろ――それが始まりだった。


 走り出し、迷い込み、辿り着いたその先で――



「なまえは……なんていうの……?」



 出逢ったのだ――白い髪をした女の子に。


 長く長い後悔の、その始まりに。



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