04 事情と情報、背伸びをする
■
食堂を出た
目的は、そこに貼られていた〝部活〟の部員募集のポスターを調べることだ。
確かにその方が効率的というか、ある程度の連携はとれる。
個人同士が組んだパーティーにあとから入るよりも多少は加入しやすいだろう。
『一つ気になったんですけど……なんでみんな、ダンジョンなんかに潜ろうとするんですか? 何か……報酬があるとか?』
『そうね、潜る理由は人それぞれあるでしょうけど、まず、生徒会からの提案として、ダンジョンを一番に攻略した――つまり初雪くんを連れ出した部活には、今度の予算会議で部費を増額することを挙げてるわ。そして、それとは別に学園側から、攻略した生徒に〝ポイント〟を付与することになってるの』
『ポイント……成績とか、内申点?』
『ストレートに言えば、この街だけで使える〝電子マネー〟ね。本来はそれこそ成績なんかによって付与されるもので、コンビニで買い物した時にプラスされるポイントと同じくらい少額なんだけどね……今回の報酬は、それなりの額』
いわばこの街独自の通貨が存在しており、それがダンジョン攻略の報酬となっているのである。
それならある程度の危険を冒してまでダンジョンに挑む理由も納得できるというものだ。
この街は学園を中心としているだけあって、学生向けの遊興施設なんかも少なからず存在しているし、有名な外食チェーン店もある。都会から離れた山の中とはいえ、小さな地方都市レベルにはお金を使えるところがあるのだ。
ついでに言うなら、真代に与えられた学生寮の一室――特別寮も、本来は海外からの留学生や、年間で高ポイントを獲得した成績優秀者への特典として与えられる、その名の通り、特別な部屋らしい。
通常の学生寮は見知らぬ他人と二人部屋になるらしいから、真代は最初からかなりの好待遇を受けている訳だ。
『そういえば、真代くんにも渡しておかなくちゃね』
――と、その時に真代はくだんのポイントがチャージされる学園専用の端末を受け取ったのだが、
(最初っからそれなりの額がチャージされている……)
これで遊びも外食も思うがままだ。
『ゲームよろしく、人を雇ったり情報を買うのに使ってね』
と、忠告されてはいるが。
(世知辛いというか、なんというか……)
ともあれ、その気になれば金の力でパーティーをつくることも可能な訳だが――さすがに、あてもなく見ず知らずの他人に声をかける度胸はなく、
「まずは、部活から当たろう……」
「そうですね、ほとんどの生徒は何かしらのパーティーに所属してますし、フリーの方を探すよりは効率的かと……。それに、最近だとそういう方こそ掲示板に何か貼ってるみたいなので」
「このネット全盛の時代に掲示板が生きてるなんて、ほんとファンタジー……」
という訳で高等部の校舎を訪れた真代は、正面玄関から入ってすぐのところにある校内掲示板を確認する。
学校からのお知らせ類を埋め尽くすように貼られた、メモ書きのされた付箋の数々。思いのほかフリーの傭兵はいるようだ。
その一枚一枚をチェックする真代の傍らで、ことわがつま先立ちになりながら、
「とは言っても、夏休みなので……。少なからず帰省してる方もいると思います……」
「むしろ食堂にあれだけいたのに驚いたよ」
「〝帰る場所〟がない人も、いるんだと思います……」
「……?」
と――
付箋の中にうずもれた、一枚のポスターが真代の目に留まった。
――『科学部』
「これ……」
この現代の魔法学校と呼ばれる場所において、その存在はなんだか興味が惹かれるものだった。
「あ、はい……」
背伸びをして真代の視線の先のそれを確かめたことわが、小さくうなずく。
「文化系といいますか、運動部と違ってあまりダンジョン攻略に積極的でない部もいくつかあるんですが、科学部はその一つで……いくつかの部と協力して、ダンジョン攻略のサポートに回ってるんです」
「サポートというと、照明係みたいな?」
「それもありますけど、たとえば……〝武器〟、とかですね」
「武器……」
そういえば、生徒会役員たちも金属バットや鉄パイプで武装していた。盲点だった。武器さえあれば、魔法も何も使えない真代でも、ゴブリン相手ならまだなんとかなるかもしれない。
(たぶん体育倉庫とかいっても取り尽くされてるだろうけど――それにしても、科学部が用意する〝武器〟ってなんだ……?)
興味もあるが、ちょっと恐ろしくもある。
「モンスターとかの分析も行ってるので……昨日の新種についても、何か聞けるかもしれません……」
「
ずきずきと頭が痛むようで、出来れば思い出したくもないが――
――人を雇ったり"情報を買うのに使ってね"、と。
(情報も、〝武器〟になるか……)
それがどう攻略に繋がるかはまだ判然としないけれども、行ってみるだけの価値はあるかもしれない。
真代がそうやって、今後の方針を固めたところで、
「あの……」
なんだか申し訳なさそうに、おずおずとことわが言う。
「……最悪、誰も見つからなくても、わたしも『連絡役』くらいは出来るので……」
「あぁ、ありがと……。でもとりあえず、まずはこっち行ってみるよ」
「あ、じゃあ、案内します――」
とてとてと歩き出すメイド少女。どうやら今日も一日、真代に付きっ切りでいるつもりらしい。
(俺のこと面倒見るよう言われてるっぽいけど――迷惑じゃないのかな)
それとも、期待されているのだろうか。
彼女はもともと、
(プレッシャーだけど――)
がんばらないと、と歩き出す。
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