03 本日のご予定は?




                   ■




「ところでマシロ、今日はどうするんだい?」

「え? いや……なんも考えてないけど……。クロードさんはどうするんです?」

「僕は街を探検しようと思うんだ」

「……スマホ持ってけよ? もらったよな?」


 のろのろと昼食をいただきながら、真代ましろは今日の予定を考える。


(あんまり悠長にはしてられないよな……)


 真代にはやるべきことがある。というより、やらなければならないことだ。


 ――初雪はつゆきくんを連れ出せなかったら、退学だからね?


 そう告げたあと、生徒会長さまはとんでもないことを付け加えたのである。


『それも、二学期が始まるまでに……この夏休みが終わる前に、ね』


『え――、それじゃもう二週間もないんですけど……』


 自分に何が出来るかもまだわかってないのに、時間だけがなくなっていく。

 一刻も早く行動しなければ、そう思いつつ、モチベーションはいまだ低迷中だ。


「あの……」


 と、遠慮がちにことわが口を開く。


「ダンジョンに向かうのでしたら、まずは人集めが必要かと……」


「それなー……。昨日、聡里さとり先輩にも言われたけど……」


 昨日あの場にいたから、ことわも聞いているだろうが――


『ダンジョンに挑むなら、まずはパーティーが必要ね。最低でも他に二人、協力してくれる人がいないとダンジョンには入れないわ。というか、


『というと……? やっぱり、安全上の理由から?』


『そうね。崩落の危険はないと言ったけど、奥の方はどうなっているか分からないから。念のため、魔法でダンジョンを〝補強〟できる人員が一人。マナの扱いが上手い人がいいわね。それならダンジョンの浅い方なら戦闘面でも役に立つでしょうし』


 なんでも、地下道は生徒会の手によって、〝凝固〟させたマナで補強されているそうだ。

 少なくとも彼女たちが把握している範囲内であれば、相当な衝撃でもない限り、崩落する恐れはないという。

 ただ、問題なのはその「相当な衝撃」で、昨日の戦闘でもあったように、場合によれば魔法による攻撃がダンジョン自体にダメージを与えかねない。だから念のため、ダンジョンを補強できる人員が必要なのだ。


『それから、万が一のために〝外〟と連絡がとれる……テレパシーって言えば分かりやすいかしら? 「念話」が可能な人員。ダンジョンでは何が起こるか分からないから、もしもの時、外に助けを求められるようにね』


 ダンジョンの中では携帯の電波が届かない場所もあるそうだ。むかし使われた坑道跡なのでそれも仕方ないだろう。


『中で倒れたら大変ですもんね……』


『まあそうだけど、その点はあまり心配しないでいいわよ? ダンジョンに入るときは生徒会の手続きを経るから、長時間戻ってこなかったらこちらから捜索隊を出すし……そうでなくても、モンスターが入り口まで運んでくれるしね』


『……はい?』


 ……思い返してみても、いまだに腑に落ちないというか、不思議な話だ。


(モンスターってどうなってんだろ……。あれも一応、魔法で――マナでつくられたもの……なんだよな?)


 ともあれ、生徒会による安全管理は徹底しているようだし、ダンジョン側も、ゲームと違ってパーティーが全滅したらゲームオーバー……なんてことにはならないようだ。

 あの話を聞いてからというもの、ダンジョンに臨むこと自体の気持ちのハードルは多少下がったが――


(入るための条件がな。無難なのは、既にあるパーティーに加わることだけど……)


 その、他のパーティーの存在もまた問題だ。

 生徒会は別として、昨日遭遇した少女のパーティー――聞けば、生徒会とは別に、現在ダンジョン攻略の最先端を走っているパーティーであるという。


『他のパーティーもみんなこぞって、ダンジョンを攻略しようとしてるわ――先を越されちゃうと、どうなっちゃうのかしらね? 攻略のために呼ばれた真代くんの立場は』


『とても肩身が狭い思いをすることは確かでしょうね……、ははは……』


 最悪、役に立たなかった真代の居場所は失われるだろう。

 つまり、退学である。


「クロードは、ダンジョンの方はどうするんだ……? なんか、考えてんの……?」


 と、昼食を終えてご満悦そうな隣の金髪美少年にたずねてみる。


「そうだね、僕の方は最低でもあと一人、『連絡役』のメンバーが必要だと言われたよ」

「へえ……」


 それにはたぶん、真代とは異なるニュアンスが含まれている。

 クロードなら単身でも攻略できる実力があると見込まれての、「あと一人」なのだろうと思う。


(こっちにくっついてくってのが、一番安易なんだけど……それだと俺、ただの足手まといにしかならないっていうか、やっぱりコトが済んだら〝用済み〟になるんだろうな)


 何か、自分の〝価値〟を証明しなければ……きっと、学園には残れない。


「パーティー、か……」


「理想としては……」


 と、またまた遠慮がちに、ことわが言う。


「昨日の生徒会のみなさんみたいに、前衛が数人、魔法で攻撃や回復が出来る後衛の人が最低でも一人くらい……ですかね」


「うん……。大型への対処にも、小さいのがわらわら沸いてきても、全体攻撃で一掃って感じだしな……。『ザ・魔法使い』ってポジションは必須だ……」


「それから、サポート役に……ライト等で視界の確保をしてくれる人も。そういうポジションの方は大抵、マナ感知に優れている方が務めます。そういう方がいれば、モンスターの接近にも事前に気付けて便利かと……」


 言われてみれば、昨日の生徒会にも、モンスターや他のパーティーの接近を事前に察知している節があった。


(マナ感知ね……。心当たりがないでもないが、あの人は誘いづらいな……)


 ふうむ、と首をひねる。


「そう考えると、生徒会は理想編成だって訳だ……。八人くらいいたっけ」


「それもこれも、あの会長の指揮あってのものだと思うよ?」


「というと?」


 クロードは昨日の生徒会を見て、どんな感想を抱いたというのだろう。興味がある。


「役員それぞれも高い能力を持ったメンバーだったけれど、一番はあの会長さんだよ。彼女にはなんというか、カリスマのようなものがあるんだろうね。その指示があったからこそ、彼らは個人の力量以上の力を発揮できた。うまい連携をつくりだせたんだ」


「マナの〝流れ〟を操った……みたいな?」


 なんとなく頭をよぎった〝たとえ〟を口にしてみると、クロードは「その通り」とうなずいた。


「まさにそれだね。流れを操り、つくりだすんだ。それがイコール、うまい指揮というやつさ。あのメンバーだけで簡単にクリアできそうだと僕は思ったよ。でも、まあ――」


 そう一筋縄にも行かないから、こうして外部の人手を頼ったのだろう。

 実際昨日も、突如現れた〝新種〟――『寄生型』のモンスターにわずらわされたようだし、〝相手〟もまた一癖も二癖もあるのだ。


(そんなのを相手に、この街での人脈なんてほとんどない俺がどうしろってんだよ……)


 頭を抱えたくもなるが――うじうじ悩んでいても始まらない。


「――よしっ」


 席を立つ。

 見渡せば、食堂にはまだそれなりの生徒たち。


(さすがに手あたり次第当たる勇気はないけど――)


 これだけの数がいるなら、自分と組んでくれるような人もいるだろう。

 まずは、行動あるのみだ。



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