03 ダンジョン突入2
■
先ほど戦闘があった開けた空間まで戻ってきて、間もなくだった。
「来たわね……」
(他の
男子も、女子もいた。それぞれ懐中電灯や金属バットを手にしていた。複数のライトが集まって、広間が明るく照らしだされる。
彼らは隅の方で待機するこちらの気配に気づくと一瞬警戒するような様子を見せたが、すぐに後ろを振り返って声を張り上げた。
「こっちオーケイです! お嬢、早く!」
何やらただならぬ雰囲気を醸し出している彼らを見て、真代は隣の
「……なんか、あったんすかね……?」
「でしょうね……。まったく……」
どうやらお怒りの様子である。
その理由は、通路から新たに飛び込んできた人物によって明らかになった。
「なに立ち止まってんのっ、早く逃げ――、あ……?」
「
「げぇぇ、お姉ちゃん……」
光の中に現れたのは、ジャージ姿の小柄な女の子だ。
どことなく誰かに似ているような気もしない顔立ちで、黒髪ツインテール。大きな目を見開いて聡里の方を凝視していたかと思うと顔をしかめ、それからその視線は、隣にいる真代を捉えた。
「……誰よあんた」
「え? あー、えっと……」
なんだか完全にとばっちりを喰らってるような気もしないでもないが、真代がとりあえず名乗ろうと口を開きかけたその時である。
再び、聡里がぎゅっと真代の腕にしがみついた。
「この人はね、あなたのお兄ちゃんになる人よ」
「は?」「え?」
――え!?
そこかしこから驚愕の声が上がり――その場が完全に静まり返った。
いたたまれない静寂の中、聡里だけがにこにこと微笑んでいる。
明里と呼ばれた少女の、なんとも言えない驚きの表情が心に残った。
(いちゃいちゃしてる両親見ちゃった時みたいな……そんな目でこっち見ないで……)
周囲からもなんだかそんな目を向けられているような気がして、どんどんいたたまれなくなってくる。
誰かこの沈黙を破ってくれないか――真代がそう願った時である。
ぅぅぅぅぅぅうううう……
静まり返ったからだろう、明里たちの出てきた通路の奥の方から、かすかにうめき声のようなものが聞こえてきた。
(こ、今度はなんだよ……? 風の音……? でもさっきまでそんなの……)
先ほど出てきた生徒たち――明里のパーティーだろう――が我に返ったように、
「や、ヤバいです明里さん……っ」
「あいつらもうすぐそこまで……!」
途端に慌てだし、しきりに通路の方を気にし始める。
明里は今一度こちらを睨んでから、
「て、撤収よ……っ」
ダンジョンの入り口に向かおうとする――その背に、聡里が声をかけた。
「待ちなさい明里、あなたまた何かしたの……っ?」
「ちがっ、あたしなんもしてないもん! あいつら急にゾンビになって……!」
「ゾンビ!?」
真代が通路を振り返った時、暗がりの向こうから――
(な、なんだ……ただの生徒じゃ――)
現れたのは……なんでもない、数人の一般生徒だ。
何かに襲われて、逃げてきたのか。土埃に汚れたジャージ姿で、よろよろと通路から這い出して来る――
ヴぅぅぅぅぅぅううううぁああああ
「ひぃっ……!」
「来た……!?」
なぜだろう。明里のパーティーの生徒たちが怯えだす。
金属バットを持った少年が、テニスラケットを持った少女が、我先にと言わんばかりの勢いでダンジョンの出口へ向かい始めた。
その背に――通路からだ。
「うわぁっ!?」
光が、炸裂した。
「今の……、魔法!?」
金属バットを持った男子が弾け飛ぶ。
勢いよく転がった彼に、通路から現れた何かが飛びついた。
「全員、戦闘態勢! おそらく〝新種〟よ! 警戒して!」
聡里の声が飛ぶ。
「な、なにごと……!?」
懐中電灯の光が錯綜し、真代には状況がつかめない。
何か、通路の方から〝攻撃〟があったのは分かる。それからなだれ込むような足音が連続して響いた。
「奥から複数……!」
「マナ集束が……! また攻撃してくる!」
「あいつら何やってんだ……!」
「気を付けてください! "こいつらにさわられると"……!」
「ライト! 通路を照らして!」
かろうじて――先ほど吹っ飛ばされたバットの少年が起き上がるのが垣間見え――
金属音が連続する。
「そいつモンスターじゃないの攻撃しないで! あたしの部下!」
「詳しく説明しなさい!」
「だからゾンビって……!」
悲鳴が上がり、一瞬通路を照らしかけた光があらぬ方向に飛んだ。
「あ……」
懐中電灯が、真代の足元に転がってくる。
それを拾い上げた。
ばぁっ――と。
「うわぁぁぁああああああああっっっ!?」
……ゴン!
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