第二十話 モブキャラ、はじめました。【001,002】

001.

「嘘……だ……」


僕は黒焦げになった魔法屋を目の当たりにして跪く。


「お、おい君。大丈夫か?」

誰かが僕の腕を掴む。

僕はその腕を振り払って、魔法屋の中に入ろうと立ち上がる。


「おい!君、そこは立ち入り禁止だ!」


僕を止めようとする衛兵を、魔道具を軽く振るって弾き飛ばす。


嘘だ。嘘だ。


僕は心の中でその言葉だけを反芻する。

師匠が殺されるなんてありえない。あの魔法屋が焼かれるなんて……

この魔法屋の中はマナ濃度が薄くしてあるため、魔法を用いることが出来ないようになっている。また、炎に対する耐性も強く持たせているため焼くことすらできないはずなのだ。そう、魔法では。



僕は嫌な予感を催す。



嘘であってほしい。

僕は決めたんだ。

自分の力で大切な人を守るって。

大切なものを守るくらい自分一人でできるって。

だからこれからは自律して生きていくって。



なのに。





なのに。




僕は魔法屋の扉をこじ開ける。

その扉はギシギシと軋みながら崩れ落ち、その中を覗かせる。



中は跡形もない程に黒焦げだった。

その魔法屋は木造であることも相まって、ほとんど原型を留めていなかった。

「これは……」

僕はカウンターの上にブローチを見つける。

「師匠の……」

僕は地面に丸焦げであるが、どこかで見たことのあるような魔道具を見つける。


嫌な予感が当たってしまった。



それはまさに、僕が駄賃を払えなかった時に、通り過ぎの人に売った「火炎スクロール」であったのだ。



その瞬間、僕の中の何かが音を立てて壊れた。


僕はカウンターを蹴り飛ばす。

火災で脆くなったカウンターは音を立てて崩れる。



「くそっ!くそっ!くそっ!」



僕は泣きながら地面に散らばる木の残骸を踏みつける。



「何なんだよ!なんで僕ばっかりこんな辛い目にあわなくちゃいけないんだ!」



僕は何も悪いことをしていないのに。



みんなからも裏切られて、

それでも自分で生きていくとも決めて、

なのに馬車の駄賃すらまともに払えなくて、

くだらない誰にでもできる仕事に満足して、

最終的には師匠さえ守れなかった。



002.

僕は、僕の手で師匠を殺したのか。


僕の肩からは力が抜ける。


「僕は最低でヘタレな人間のクズだ。」


僕は壁を殴る。

拳がジンジンと痛む。

知るかそんなもの。

それくらいなら消えたほうがマシだ。


師匠からは多くのことを教えて貰った。

その温かさと優しさで僕を救ってくれた。

あの時、自身を完全に失い自分の存在価値を見失いかけていた時、僕を救ってくれた人物。

師匠は僕を、弟子と言ってくれた。

あれだけ弟子を取らないと言っていた師匠が、僕を弟子として認めてくれた。

それは僕を励ました。



なのに僕は。

僕という人間は、貰った恩をこんな形で返すクズだ。

自分の力を過信して、一人でなんでもできると思って、調子に乗って売った魔道具で師匠を殺してしまったのか。



僕はまた、壁を殴る。

手からは血が吹き出す。



結局僕と言う人間は、皆から蔑まれても仕方のない人間なのだ。


これから僕は一生、この罪を負って生きていかなければいけないのか。

僕は、周りに誰も居ないのに皆から後ろ指を指されている感覚を催した。



「ヘタレ!ヘタレ!」



と笑い声に似た嘲笑が僕の胸を刺す。


僕はフラフラと立ち会がり、手元から魔道具を取り出す。

「はは。結局さ、こういうことになるよね。うんやっぱり知ってたよ。頑張っただけ無駄。努力して実力をつけても、結局惨めな終わり方をするだけだ。うん。」


僕は乾いた笑いをした。


「結局何も残せずに終わるのか。僕も来世は、転生勇者みたいにみんなからチヤホヤされて楽な生活がしたいな。それか、魔王なんて居ない世界に生まれ変わりたいな。みんなが平和で豊かで、明日生きていけるか生きていけないかを考えるような隙すら無いような平凡な世界に。」


僕は天を拝む。


「ねえ神様。そこにもしあなたが居るんだったら教えてよ。僕は何でこんな目に逢わなくちゃいけなかったんだ?自分のせいで師匠が死ぬなんて、誰が考え付いた最悪のシナリオなの?ねえ、答えてよ。」


僕は崩れ落ちる。


「ねえ。教えてよ。教えてよ。どうせそこに居るんでしょ?まあそうか。僕みたいな勇者でも何でもないただのヘタレのモブはどうでもいいのか。」


僕は泣きながら魔道具を取り出す。

これを使えば、この魔法屋は支える力を完全に失って崩れ落ちるだろう。

せめてもの償いをさせてほしい。



師匠が死んだ時のように、僕を苦しませながら殺してくれ。

僕はその魔道具のボタンをゆっくりと押した。

ガラガラという音と、悲鳴と、叫び声と共に、僕は目を閉じた。

「さようなら。」

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