第十五話 魚市場と珍商品と温泉街と【002】
002.
「さ、温泉街についたわよ~。」
そう茜音さんは言い、馬車を降りた。
既に時間はお昼を過ぎており、温泉街は多くの人で賑わっていた。
「さすがにこの時間だと人が凄いわね。」
「そうだな、茜音。俺もこんな人がいる姿を見たら、大はしゃぎしたくなるな!」
そうルドルフさんは子供のように言い、周りをキョロキョロと見始めた。
「ルドルフさん。大人として恥ずかしいですよ。しっかり見られているという意識を持ってください。」
「何を言う、ネビル!ここは、しっかりと、男として最高に遊ばないとだめだ!」
「男としてってどういうことですか、ルドルフさん。第一あなたは図体も大きいんですし、そんな体で騒がれたらこちらも困るんですが……」
「なんだと?グチグチうるせぇな。そんなんだからモテねぇんだぞ、ネビル!」
「あなたは本当に……黙っていればいい気になって!あなたもモテないでしょう!」
「あん?俺様がモテないだとぉ?」
「はいはい、二人とも。そこまでだよ。」
そう言ってまたもや秋月さんが二人の間に入る。
「これから楽しむんだから、仲良くしなきゃだめよ。よしよし。」
茜音さんはこう言って、ルドルフさんとネビルさんの頭を撫でる。
「完全に犬だな。」
「じゃあ、茜音ちゃん、準備はいい?」
秋月さんが言うと、茜音さんはニヤリとして、「はい。もう食材の一覧はできていますよ~。」と言った。
「よし、そしたら買い出しをする組と山で設営をする組に分かれようか。」
と、秋月さんが言った。
「スピカ君とエレナちゃん。頼んでもいい?買い出し。」
僕とエレナは頷き、茜音さんと共にこの温泉街の市場を見て回ることにした。
「みんなは力仕事、頑張ってね!あと秋月さん、あの二匹をどうぞよろしくお願いします。」
そう言って茜音さんは秋月さんに頭をペコリと下げる。
「了解。あの二匹のお守りは僕がきっちりやっておきます!」
秋月さんは僕たちに謎の敬礼をして、ルドルフさんとネビルさんを引っ張っていった。
僕とエレナはその光景を見て、「二人ともやっぱり犬みたいだと思ってたみたいだね」と吹き出した。
フェンテ・メンテ。ここは世界中から多くの品が集積する、この国で最も栄えていると言っても過言ではない街である。
この街がここまで栄えているのには理由がある。
まず、メンテ岬と呼ばれる港の存在や多くの街道が交わる場所の存在が挙げられる。この岬は「大海」と呼ばれる、世界の中心に存在する海に面している岬であり、毎日多くの船が行き来する。この船は遥か遠くにある国から貿易をするために行き来する船であり、例えば砂漠の国アレーナ・ルベニロクや極寒の国フリオ・ティエラなどからの船が挙げられる。また、東西南北に広がる街からの貿易路が集中しており、様々な街の特産品が集積する場所もあるため、多くの特産品が毎日のように市場に出品されるのである。
そして、この街の近くに存在するウラオメルク火山という火山の影響で、多くの湧泉が存在し、温泉がそこら中で湧き出す。
そのため、この街は観光地として有名になったのだ。
この街は、温泉と市場が融合したような一種の歓楽施設のようになっており、温泉に浸かりながら様々な土地の名産品を食すことができる。
そのため現在僕たちは、その市場の中心部に来て、各地から寄せられてくる、珍しい具材を選びに来ているのだ。
「さすがにフェンテ・メンテともなると、相当珍しいものもあるのね。」
茜音さんはそう言って、屋台に売られている野菜を指さす。
「この野菜は極寒の地でしか採れない野菜で、食感が口の中で弾け飛ぶような感じなのよ。」
「弾け飛ぶ、というのはどういうことなんですか?」
「確かマナを多く含むらしくて、そのマナが噛んだ瞬間に弾け飛ぶから口で暴れるような感覚を覚えるらしいのよ。だから魔法使いがよく好んで食べるらしいわ。」
「茜音さんは博識ですね。」
「まあね。何せ食のプロですから。」
その後も虹色に光り輝く果実、食べると10回味が変わるという果物、食べると頭から生えてくるという何の役に立つかもわからないキノコ、果てには世界一臭い野菜など、もはや不思議を越してその存在意義が分からないようなものにまで出会った。
「ね。来てよかったでしょ?」
そう茜音さんは僕に向かって言った。
「はい。凄く楽しかいです。世界中にはまだ僕の知らないようなものが多くあるんだなぁと思いました。まあ、あの臭い野菜には閉口しましたけど。」
僕はそう口を尖らせる。
「まあまあ、お目当ての食材は手に入れたんだし、いいじゃない。」
そう言って、「じゃあ今度、世界一臭い野菜買っていってあげる。」とニヤけた。
僕は、「絶対にいらないですからね!買ってこないでくださいよ。くれぐれも。」
と釘を刺したが、茜音さんは「振りかな?」と言って悪い笑みを浮かべていた。
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