第十四話 異世界勇者タナカさん【005,006】
005.
僕は国王から、この世界には「魔王」がいて、その魔王によって世界が危機に晒されていること、そしてこの世界でこの世界を救うことのできる人間は「僕」しかいないことを聞かされた。
普通の人間であればそのことに喜びを感じたであろう。
自分にしかできない能力を、舞台の中央に立って見せびらかすことができるわけで、それを拒む人はいないと思う。
でも、僕は違った。
僕は、そんなもののために生き返ったんじゃない。
僕にとって、生き返ってまでしたかったことはこれじゃない。
もしもあの時の死神がこの場に現れて、僕に助言するとしたらどのような風に言っただろうか。生き返る代わりに勇者になるという使命を与えられたのだから、その使命を全うするべきか。勇者になるという選択を呑みながら、だらだらと生きながらえて、趣味として自分のやりたいことをするような折衷案をとるべきか。
否、そのようなことは言わなかったであろう。
僕はあの時、決心したのだ。二度と後悔しない人生を送ろう、自分にとって悔いのない人生にしようと。
だから僕は、勇者であることを拒否し、国から逃げて、日本料亭をつくることに決めたのだ。
006.
僕がその意思決定をすれば、当然僕は、「勇者は勇者でなければならない」という当たり前の大義に背いたことで命を狙われる。
そのため僕は、この街から逃げることにした。この街から逃げ、ひっそりと身を隠しながら料亭を営めば、なんとか生きることができると思っていたのだ。
しかし、そんな考えは甘かった。
僕がその街を出ようとした時には、僕は既に多くの兵に包囲されていた。
僕はその光景を今でも覚えている。
そして僕はその壮観な様子を見て絶望した。
凄まじい数の兵隊が私を探し出そうと血眼になっているその様子。私は結局逃げることすら出来ず、死んでしまう。
僕はあの死神を恨んだ。
せっかく生き返ってもやり直すことはできなかったのか。僕はそう思って、絶望した。
僕が諦めかけたその時だった。
僕は「誰か」に手を掴まれ、穴の中に引きずり込まれていた。
「大丈夫か?」
僕の顔を覗き込んできたのは厳つい顔をした男だった。
そしてその男は僕を見て、「やりたいことがあるんだろう?なら、こっちに来い。」と言い、洞穴の中に入っていった。
何時間歩いただろう。
僕たちはその洞穴を歩き続けた。
僕は体力の限界で倒れそうになりながらもその男について行った。
ここで諦めるわけには行かないんだ。
その気持ちだけが僕の支えになった。
「あそこだ。もう少しで外に出るぞ。」
その男は洞穴の先に見える微かな光を指さした。
僕は最後の力を振り絞り、その男に続いた。
洞穴の出口を出ると、そこには、小さな村があった。
見るからにみすぼらしい家が立ち並び、ところどころ瓦礫が広がっていた。
「ここだったら大丈夫だと思うぞ。まあ、こんな村にはさすがに追手が来ないだろう。俺たちは国王様を止めておくから、お前はやりたいことをやりな。」
「なんで僕のことを助けてくれるんですか?」
「俺たちの仕事は勇者様を守ることだからな。まあとにかく元気でいろよ。」
そしてその男は、「せいぜい頑張れよ、勇者様。」と言い、洞穴へ消えていった。
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