第九話 任務開始【004】
004.
「では、気を付けて。」
そう言って、秋月さんが私たちを見送る。
秋月さん、そしてスピカが居るのは、私たちの構えた拠点、即ち今から私たちが潜入する奴隷窟の隣に位置する廃工場の二階だ。そして私と茜音さんはアルドーフ家のメイドに、ネビルさんはアルドーフ家の主人に変装する。
『まずはこのまま一階に下りて、二つ目の曲がり角まで直進して。』
秋月さんの指示とともに、ネビルさんは堂々とステッキを突きながら、まるで本当に貴族かのように歩く。そして私と茜音さんは彼の後ろについて歩く。
『そしたらその曲がり角を左に曲がって。』
私たちは言われた通り、左に曲がる。
『そしたら右の四番目の建物の階段を下って。くれぐれも注意してね。ここから先は本物の危険地帯だから。』
私と茜音さんは顔を見合わせ、頷き合った。
階段を下ると、そこには真っ暗な光景が広がっていた。
私は少し興奮する。このような「いかにも危険そうな任務」というものこそ私の憧れであり、私の本領を発揮する場所でもあるのだ。
あのヘタレスピカと違って、私は士官学校で訓練してきた。誰よりも厳しい訓練を一番真面目にこなしてきた。そんな自信が私を駆り立てるのだ。
私は耳に入れた不思議な金属の魔道具をさらにしっかりと耳に入れ直し、懐に仕舞った大量の魔道具を見る。
これらの魔道具は何に使うのかわからなかったが、不思議な物ばかりである。私が幼い頃や士官学校時代に見た魔道具はどれも、そこまで利用価値の無いようなおもちゃが多かったのであるが、これらの魔道具はとても不思議な形状をしていたり、様々な材質でできたりしてはいたものの、そのどれもが美しく、洗練されている感じのするものであった。
「本当に、あの魔法屋のお婆さんは凄い人だったんだな。」
そう私は漏らす。魔導工学に審らかではない私でも、魔法自体は得意であるためそのマナの流れは鮮明にわかる。それらも含めて、一つも無駄がなく、美しいのである。
階段を下ると、そこには真っ暗な光景が広がっていた。
暗闇で私たちは何も見えなかったが、明らかにそこが異常であることにはすぐに察しがついた。時々途切れ途切れに聞こえる呻き声、異様な殺菌臭と獣臭が混じった臭い、そして微かに聞こえる鎖の音。視界を奪われた私たちは、普段見ている世界には無いような何かを見せられている気がし、悪寒を催した。
急に視界が開ける。
そしてランタンの明かりが私たちを照らす。
「おやおやこれはお客様でしたか。お待たせいたしました、こちらへどうぞ。」
そう言って私たちを覗き込んできたのは、如何にも怪しげで異様な雰囲気を醸す一人の男性だった。
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