第九話 任務開始【002】

002.

僕はそのネックレスを固く握りしめ、魔法屋を後にした。


この一か月間、通いなれた魔法屋は、もう一度改めて見ると、とても小さく、そして相変わらず忌々しかった。僕は「やっぱり最初の印象は間違ってなかったんだな」と言って笑った。


僕は魔法屋に向かって、小さく呟いた。


「師匠。期待、されました。」


僕たちは馬車に乗り込んだ。


それは勿論、僕たちが次に向かわねばならない街、「アクア・フェンテ」に向かうためである。


アクア・フェンテ。

はじまりの村から馬車で移動して一時間ほどの隣町で、はじまりの町とは比べ物にならない程栄えている街。この名前は、古代言語で「水の泉」という意味を表しているらしく、この街はその名前の示す通り非常に水に恵まれている場所である。また、地面を掘ると簡単にミネラル分豊富で良質な温泉が湧き出るような温泉に恵まれた土地でもあるため、街の中枢部に存在する温泉街が有名である。はじまりの村の総人口と比べこの街の総人口は約十倍であり、それだけの人数をようするのに十分な広さと施設群、そして活気があるということが言える。

またこの土地は交易の要所としても知られており、四方に延びる交易路からは毎日のように多くの品が運ばれてくる。そのため露天商が活発で、この国ではめったにお目にかかれないような異国情緒あふれる食品や土産物も購入することができるという観光地なのである。



そのため、当然の如く僕たちは皆、浮足立って早くも仕事が終わった後の話で盛り上がっているのである。


「ねえねえ秋月さん、この場所で絶対に行っておいた方がいい場所はどこですかね?」

「そうだねぇ。やっぱりここら辺で茜音ちゃんにおすすめなのは、温泉街にある出店かなぁ。普段は食べられない異国の食材を使った絶品料理が食べられるからねぇ。」

「ごおおおおお。それはうまそうですなぁ。」


そう言いながら茜音さんは幸せそうな顔をする。


「ま、その前に仕事だがな!仕事をした後の飯が一番旨い!」


そう言ってルドルフさんは茜音さんと僕の頭にポンッと手を載せる。


「ではこれからの手順を確認しましょうか。」


そう言うネビルさんの号令とともに皆仕事の頭に切り替え、これからの仕事の計画を練り始めたのであった。

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