第二話 憧れの私になるの。【004】
004.
私は恐る恐るその、まるで要塞のような「施設」に入った。
その要塞の様な学校を見上げると、その大きさに圧倒される。
私は怯えて立ち竦むが、意を決し要塞の門の前に立ち、叫ぶ。
「すみません!」
暫くすると、私の方へ男の人が近づいてきた。
私は怖かった。
両親を目の前で亡くし、独りぼっちで知らない施設に入れてもらう。
そんな状況は、幼い私にとって恐怖以外の何物でもなかったであろう。
私は拳を硬く握って、恐怖に耐える。
「どうした、お嬢ちゃん。何かここの者に用かい?」
その男は私に、優しく微笑みかける。
私は、その人があまり怖くなさそうでよかったと胸を撫で下ろし、息を吸い込んだ。
「あたし、ここに入りたいんです。」
すると、その男は驚いた顔をして、「本当にそうなのかい?」と言った。
「はい!」
私は元気よく返事をする。
「お父さんやお母さんは何て言っているのかな?」
私は俯いた。
忘れようと思っていた思いが込み上げてきて、すすり上げた。
「お父さんも、お母さんも、殺されたの。」
そう言って、私は泣きじゃくる。
「そうか。」
そう言って、その男の人は私の頭を撫でる。そして、
「この学校に、入りたいのか?」
と言った。
私は黙って頷く。
するとその男は急に厳しい目になって、「本当に入りたいのか?後で後悔しないか?」と聞く。
私は何も言えずに頷く。
「そうか。なら、こっちについて来なさい。」
そう言って、その男の人は私に手招きをする。
私は、その男の人について歩き、ガラガラと開く大きな門をくぐった。
門をくぐった瞬間のことだった。
その男の人は私の方を振り返った。
その顔は、先ほど私に見せた優しい顔ではなかった。
「泣き止め。」
私は呆気に取られて、その男の人を見る。
「え?おじさん?」
するとその男は怒る。
「泣き止めと言っているのだ。あと、私にはカール=ハイネンという名がある。その名で呼べ。」
「え?」
「いいな?」
「え?」
するとその男は場内に響き渡らんばかりの声で叫ぶ。
「返事は「はい」だ。それ以外は認めない。いいな?」
「は……はい。」
私はあまりの恐怖に泣き始める。
「泣き止めと言っているんだ!いいか?お前はここに入ると言った。なら、泣き止め!今すぐにだ!」
私はすすり上げながら聞く。
「カールさん……ここはどこ?」
「私のことはカールさんと呼ぶな。ハイネン教官と呼べ。ため口も使うな。」
「すみません……ハイネン教官。」
すると、ハイネン教官は私に近づき、私の耳を引っ張ってこう言った。
「いいか!耳を掻っ
私は恐怖からまた泣きじゃくる。
「泣くな!耐えろ。お前はここに入ると決めたのだ。この世界で生きるということはそう言うことだ。」
私は、しゃくり上げながら「はい。ハイネン教官。」と言った。
「改めて紹介する。ここは、騎士士官学校だ。国王様が慈悲と共に期待を込めて作って下さった、全寮制の学校だ。」
私は頷く。
「返事は!」
「は、はい。」
「返事が小さい!返事は短く、「はい!」だ。」
「はい!」
そう言って私は泣きそうになりながらぐっと堪える。
「ただし、騎士と言っても、剣士だけを養成しているのではない。それ以外に魔導士や召喚士も養成している。それらを
そう言って、ハイネン教官は、「返事!」と言った。
「はい!」
「今のお前のような者は見習いだ。そして、その上に
「はい!」
私は怯えながら返事をする。
「あと、お前がどんな悲劇に見舞われたかは知らないが、ここではそんなものは一切関係ない。お前は騎士見習いで、国王様に仕える者の一人だ。いいな。」
「はい!」
すると、ハイネン教官は私を連れて、施設の紹介を始める。
「ここは寮だ。男子寮と女子寮は完全に分かれている。お前はこっちの女子寮だ。起床は5時半、就寝は9時。一切の寝坊や夜更かしは認めない。発覚次第、懲罰を課す。いいな。」
「はい!」
「ここは食堂だ。食事は10分で済ませ、食事が終わったら直ぐに講義を受ける講義室へ移動すること。」
「はい!」
「ここは講義室だ。ここで基礎的な講義を聴講する場所だ。ただし、ここ以外にも様々な棟がある。そこでお前たち見習いは様々な実技科目を行う。」
「はい!」
「ここは演習場だ。お前たちは小姓になると、それぞれの専門を決めることができる。剣士や魔導士、召喚士などと言った具合だ。それぞれの専門によって、様々な演習場を使用することになる。」
「はい!」
それから教官によって様々な施設の紹介が為された。この施設は広大で、歩き回るのには一日を要したが、私たちはその施設の隅々まで見て回った。
見学が終わると、教官は私の方を振り返ってこう言った。
「お前が望むのなら、いつでも辞めても構わない。私はお前がどうしようが構わない。お前が一度外に出れば、私はまたお前に優しく接することができる。それでもやるつもりはあるか?」
私は考える。ここで外に出たところで、何にもなれず、奴隷になるか物乞いになるしかない。しかも、私を助けてここまで連れてきたあの人たちに報いることもできない。あの人たちのようになることすらできない。
私はあの時、「あの人たちみたいになりたい」と思った。颯爽と危険な場所に現われ、人々を救う。そんな英雄に憧れた。あの人たちとの約束を守って、憧れの仕事をするんだ、そう思った。
「はい!やります!」
すると、教官はこの要塞の中に入ってから初めて、笑顔を見せた。
「では、頑張れ。」
「ありがとうございます。やるからには一番になります。」
私はそう答える。
「そうか。」
その教官はそう言い、私を見たのであった。
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