第一話 弱虫でヘタレな一番星【002】

002.

月日は経ち、僕は16歳になった。16歳と言う歳は、この世界の住人にとってとても重要な意味を持つ。16歳になると、皆何かしらの仕事に就かねばならないのだ。

 

そのため僕も、これからなる職業を決めなければならない。

 

しかし僕には、「やりたい仕事」が無い。


僕は魔法が出来ない。魔法を習得するには学校に入るか、僕のお小遣いでは買えないような高い魔法書で勉強しなければならないのだ。

僕は剣術もできない。もちろん剣術にも訓練が必要である。しかし、その修行もしてこなかった。

最悪の場合、冒険者になるという選択肢もある。しかし冒険者の死亡率は高く、魔法も剣術もできない僕の場合、就いても直ぐに死んでしまう可能性が高い。


僕は壁にズラリと並べたスピカ号を見ながら、ため息をつく。


今の時代、僕の作っている自動人形など、必要とされていない。

そんな使いにくいものを使うよりも、便利な魔法を使ったほうが良い。

もっとかっこよい人形だって、いくらでも売っている。


だから僕には、「活かせる特技」が無い。そもそもこんな特技、持っていても意味がないのだ。



この世界には「魔王」と呼ばれる悪魔が存在する。

魔王というのは、多くの魔物という生き物を従えて、人々を虐殺している悪魔のことだ。

そして、それに対抗できる存在は「勇者」と呼ばれる、異世界から召喚された存在だけである。


だから、僕たち一般市民は魔王に襲撃されないように祈りながら、勇者を待つしかない。

 

そんな世の中で、自動人形など全くもって意味を為さないし、必要とすらされないのである。


しかし、父だけは僕を認めてくれた。そして、僕に様々なことを教えてくれた。

 

だから僕は、自動人形を作ることに毎日勤しんでいた。



しかし僕の父は、ある時を境にその姿を消してしまった。



スピカへ。

お前のスピカ号は、確かに世の中では認められないかもしれない。

しかし、その技術は「お前しか持っていないもの」だ。

だから自信を持て。

父さんはこれからあるところに行かなければならなくなった。

だから、もしかしたらもう会えないかもしれない。

だが覚えておいてくれ。

父さんはお前の最大の味方だ。

父より


父は自分の職についてはあまり明かさなかったが、人に言える職業では無かったことは、当時の僕でもわかるくらい明快であった。


それからというもの、僕は人生に対して投げやりになった。

固定の仕事が無くても、日雇いでどうにか生きてはいける。

楽に稼ぐことが出来ればそれでいい。

世の中で求められないものを作っても意味が無い。


だから僕は、楽に生活ができる仕事をしようと考えるようになったのである。どうせ魔王が襲ってきたら僕たちは全員死ぬ。それまでは、自分のやりたいことをして、楽に生きようと思ったのである。


 僕は、棚からスピカ第一号を手に取る。そして一言、「きったない出来だな。これじゃあ馬鹿にされても仕方ないよな」と言った。



窓の外を見た。

すっかり日は落ちて、夜の月が顔を出している。

「もう夜か。明日には、僕もこの部屋から出て外の世界にいかなきゃいけないんだよな。」

僕はそう、ため息をついて項垂れる。


窓を開けて窓の外に顔を出すと、夜の心地良い風が僕の頬を切る。

「こう見ると綺麗だな。夜の街って。」

そう言いながら、今度は夜空を見上げる。夜空には美しい星空が広がっている。

そこには一際輝く青白い星があった。思わず僕は「綺麗」と言う。

「これがスピカか。スピカって名前も、夜になると綺麗に思えてくるな。」と言って、スピカ号に話しかける。そしてスピカ号は僕に、僕の声で「そうだね。スピカって名前は綺麗だよ。」と答える。


 その時だった。


不意に凄まじい勢いで風が吹いた。


僕は突然の強風に目を瞑った。





僕は、ゆっくりと目を開ける。


僕の手には、一通の便箋があった。

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