第一話 弱虫でヘタレな一番星【001】

001.


「スピカ!起きてる?ご飯よ!いい加減部屋から出てきなさい!」


 そう言って僕の部屋をノックするのは、お母さんだ。僕のお母さんはいつも僕に「部屋を出て、外の世界を見なさい」と言う。そして、あれやこれやと色々な手段を使って、僕を部屋から引きずり出そうとするのだ。


僕は小さな声で、それに答える。


「食事はそこに置いておいてよ。勝手に食べるから。」

そう言うと、お母さんはあからさまに僕に聞こえる声でため息をつき、「全く。こんな子に育てたはずじゃなかったわ。」とぼやく。


そして僕は自分の机の上に散らかっているおもちゃを見ながらまた反省する。


「またお母さんを怒らせちゃったよ。ねえ、スピカ第一号、どう思う?僕は悪くないよね?」

 すると、僕がスピカ第一号と名付けた人型の人形は「うん。スピカは何にも悪くないよ。みんなが悪いだけ。」と、僕の声で答えた。


 僕は安心して、スピカ号の制作に戻る。


誰も認めてくれないけど、このロボットは凄いんだぞ。僕が「手を挙げて」っていうとちゃんと手を挙げてくれるし、物が落ちたら拾ってくれる。何も出来ないクセにえばっているアイツよりもずっと賢くて偉いんだ。


僕は、扉を開けて遅めの朝食を摂ることにした。


毎日毎日同じ食事。


ライ麦で作った少し酸っぱくて硬いライ麦パンと、豚の肉と野菜を水で煮たあまり味のしないスープを頬張りながら、僕はそっと、「僕の人生みたいな味だな。」と言った。

代わり映えの無い生活。

退屈な毎日。

周りのものが怖くて、ずっと部屋に籠っている自分。


僕はそんな全てが嫌いだった。



 僕はスピカという名前が嫌いだ。隣の家のアレンを始め、みんなから「女の子みたいな名前」と言われる。お母さんは「スピカって名前はね。お父さんとお母さんが夜空を見ながら決めた名前なのよ。春の夜空でひときわ明るく輝く綺麗な星。尖った形をしていて、武器になるような強さを持った名前。そんな願いを込められた名前なのよ。」と言う。


でも実際は「変な名前」と言われて馬鹿にされる、「普通じゃない名前」だ。それくらいなら一層、ありきたりな名前を付けて欲しかったと何度願ったことか。


 ある日の事、僕は初めて作った「スピカ第一号」を自慢したくて、アレンに見せに行った。あの頃は単に「スピカ」と言うと手を挙げるだけだったのだが、僕は「自分の力でそれを作り上げたことが」嬉しかった。


「アレン。僕、これ作ってみたんだけど。どうかな?」

僕がそう言うと、アレンは彼の頭の上にソレを掲げてそれを不思議そうに見た。

「へぇ。この人形を?」

僕は彼の反応を心待ちにしていた。

しかし、彼の口から出てきた言葉は、僕を裏切った。


「でもこんなの、どこでも売ってるよ。しかも顔もかっこよくないし。」

彼はそれだけ言い、僕にソレを返した。

僕はシュンとして、「う、うん。そうだよね。こんなの、ただのおもちゃだし。」

と言って、俯いた。



 あれからと言うもの、僕は外の世界が怖くなった。何かに挑戦するのも、どうせ誰かから否定されるだけで、誰も認めてくれなくて、心が繊細な僕にとっては辛すぎる現実なんだ、そう思った。

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